鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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探し物は、どれだけ探しても見つからなかった。
だってそうだ。名も知らない、どこにあるかさえも分からない、頼りになるのはこの記憶と勘だけ。
それでどうして見つけられるだろう?
雪の降る夜更けの街を走り抜ける。
あの乾いた熱砂の吹く土地では決して感じることのなかった凍える寒さが、稼動部の動きを鈍くさせているような気がして舌打ちした。
路地の裏側に入り込んだところで身を隠す。
「……た、…どこ…に……!」
表の通りを駆けていく複数の足音はまだ疲れを見せてはおらず、このままでは見つかるのも時間の問題かと思えた。
「しつこいっての……!」
用済みになったのだから放っておいてほしいのに。
終わったからさっさと死ねなど、土台無茶な要求だ。それとも機械に選択権はないのだろうか。だったらこんな感情など作らなければよかったものを――。
息を潜めて追っ手をやり過ごした後、反対の方向へ踏み出そうとしてグラリとバランスが崩れた。
「……やべ、ゼンマイ」
いつもなら気づくエネルギー切れの前兆に、寒さのせいで気づけなかった。
いつにない失態。
それでもしばらく進んで、通りに出る。面しているのはよほど広い屋敷なのか、長く伸びる塀に体を預けながら足を動かすもずるずると体が下がっていく。
「これは、本格的にやばいかも……?」
自分でゼンマイをまくこともできるが、それはそのゼンマイを巻く余裕があってこそだ。今の自分にそんな余裕があるかどうか。
軽く息をつくと空を見上げた。雪は止むことなくはらはらと黒い宙を舞っている。視界いっぱいに映る闇に何を思い出したか、わずかに目を細めた。
「……すいません。ちょっと、休憩」
届かぬ謝罪を誰にともなく呟いて完全に座り込む。
寒さや痛みを感じるには感じるが、ゼンマイが伸びかけているせいか、さほど気にならない。まあ、人と違って寒さで死にはしないから大丈夫だろう。
「あと、ちょっと、なんだけどなあ……」
頼りない勘だが、近づいてきている気はするのだ。
この街に入ってから、懐かしい匂いがどこかに漂っている――ような。そんな気がして。
この騒がしい街にいる。
その確信だけは強まるのに、探し物だけが見つからない。
「――本当に、さっさと出てきてくれませんかね――」
小さく呟いて、瞳を閉じた。
自分の周りで人が話す声で、遠ざかっていた意識が戻った。
追っ手かと身を固くしたが、どうやらそうでもないようだ。
大体、彼らならこんなに悠長にしゃべっていないで、さっさと自分を壊してデータを持ち去っている。だとしたら、こんな通りで伸びていたのにも関わらず幸か不幸か彼らには見つからなかったようだ。
声は徐々に意味のあるものとして耳に届く。
「朝…ら凍死体…処理……ですか?」
「いや……て。こりゃあ…………」
「機械」「廃棄」という言葉も聞こえたような気がしたが、もうどうでもよくなってきてそのまま目を閉じていた。手足をつかまれ、引きずられている感触が頭へと伝わってきても、そのまま。
いくらゼンマイが切れているからといっても、少し目を開けて、何か話せば自分が「生きている」ことぐらい伝えられたが、それすらする気にならないほど、今の彼は投げやりになっていた。
昨夜、雪の中をあれほど必死になって逃げていたことさえ馬鹿らしくなった。
――見つからないのなら。どこで死のうが、同じだ。
聴覚がまた違う音を捉えたのは、そのときだった。
それは、ただの足音だった。
今自分を運ぼうとしている人間たちと同じ、人の足音。
それでも、さくさくと雪を踏んで歩く軽快な音がやけに耳につく。
目を閉じたまま、自然と口元に小さい笑みが浮かんだ。
それは、ずっと抱いていた感覚がようやく形になったような。
ああ、やはりこの街で間違っていなかった。
探しものは、
「――どうした?」
きっと、もうすぐ。
私の好みが駄々もれる展開なパラレル出会い編、ハボさん視点。
タイトルはbe in love with flowerさまより。
だってそうだ。名も知らない、どこにあるかさえも分からない、頼りになるのはこの記憶と勘だけ。
それでどうして見つけられるだろう?
雪の降る夜更けの街を走り抜ける。
あの乾いた熱砂の吹く土地では決して感じることのなかった凍える寒さが、稼動部の動きを鈍くさせているような気がして舌打ちした。
路地の裏側に入り込んだところで身を隠す。
「……た、…どこ…に……!」
表の通りを駆けていく複数の足音はまだ疲れを見せてはおらず、このままでは見つかるのも時間の問題かと思えた。
「しつこいっての……!」
用済みになったのだから放っておいてほしいのに。
終わったからさっさと死ねなど、土台無茶な要求だ。それとも機械に選択権はないのだろうか。だったらこんな感情など作らなければよかったものを――。
息を潜めて追っ手をやり過ごした後、反対の方向へ踏み出そうとしてグラリとバランスが崩れた。
「……やべ、ゼンマイ」
いつもなら気づくエネルギー切れの前兆に、寒さのせいで気づけなかった。
いつにない失態。
それでもしばらく進んで、通りに出る。面しているのはよほど広い屋敷なのか、長く伸びる塀に体を預けながら足を動かすもずるずると体が下がっていく。
「これは、本格的にやばいかも……?」
自分でゼンマイをまくこともできるが、それはそのゼンマイを巻く余裕があってこそだ。今の自分にそんな余裕があるかどうか。
軽く息をつくと空を見上げた。雪は止むことなくはらはらと黒い宙を舞っている。視界いっぱいに映る闇に何を思い出したか、わずかに目を細めた。
「……すいません。ちょっと、休憩」
届かぬ謝罪を誰にともなく呟いて完全に座り込む。
寒さや痛みを感じるには感じるが、ゼンマイが伸びかけているせいか、さほど気にならない。まあ、人と違って寒さで死にはしないから大丈夫だろう。
「あと、ちょっと、なんだけどなあ……」
頼りない勘だが、近づいてきている気はするのだ。
この街に入ってから、懐かしい匂いがどこかに漂っている――ような。そんな気がして。
この騒がしい街にいる。
その確信だけは強まるのに、探し物だけが見つからない。
「――本当に、さっさと出てきてくれませんかね――」
小さく呟いて、瞳を閉じた。
自分の周りで人が話す声で、遠ざかっていた意識が戻った。
追っ手かと身を固くしたが、どうやらそうでもないようだ。
大体、彼らならこんなに悠長にしゃべっていないで、さっさと自分を壊してデータを持ち去っている。だとしたら、こんな通りで伸びていたのにも関わらず幸か不幸か彼らには見つからなかったようだ。
声は徐々に意味のあるものとして耳に届く。
「朝…ら凍死体…処理……ですか?」
「いや……て。こりゃあ…………」
「機械」「廃棄」という言葉も聞こえたような気がしたが、もうどうでもよくなってきてそのまま目を閉じていた。手足をつかまれ、引きずられている感触が頭へと伝わってきても、そのまま。
いくらゼンマイが切れているからといっても、少し目を開けて、何か話せば自分が「生きている」ことぐらい伝えられたが、それすらする気にならないほど、今の彼は投げやりになっていた。
昨夜、雪の中をあれほど必死になって逃げていたことさえ馬鹿らしくなった。
――見つからないのなら。どこで死のうが、同じだ。
聴覚がまた違う音を捉えたのは、そのときだった。
それは、ただの足音だった。
今自分を運ぼうとしている人間たちと同じ、人の足音。
それでも、さくさくと雪を踏んで歩く軽快な音がやけに耳につく。
目を閉じたまま、自然と口元に小さい笑みが浮かんだ。
それは、ずっと抱いていた感覚がようやく形になったような。
ああ、やはりこの街で間違っていなかった。
探しものは、
「――どうした?」
きっと、もうすぐ。
私の好みが駄々もれる展開なパラレル出会い編、ハボさん視点。
タイトルはbe in love with flowerさまより。
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