鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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舞うは白。
全てを飲み込む焔は、自分の右手から放たれていた。
目の前を覆う一面の白のその中に、何がいるのかなど考えない――考えてはいけない。
そう、所詮己は機械人形――考えるな。考えるな。
白い焔はますます温度を上げて、何もかもを消していく。
― すくいあげられた君と僕 act.3 ―
「少佐、大丈夫ですか?」
「……ああ」
少し、意識が飛んでいたらしい。
自分を運ぶ声に応えて、少佐は重い目蓋を持ち上げた。
何か考えごとをしていたような気もするがうまく思い出せない。
「……どうした?」
「俺はここまでです」
「……ヒューズ……?」
遠い視線の先を辿ると、見知った親友と、部隊の姿。
近く、大きな岩がある日陰にそっと降ろされた。
ざらりとした砂の感触はもう慣れたものであるはずだったが、やけに冷たく感じて小さく身震いすると、すかさず着せ掛けられていた上着を掛けなおされる。何事にも無関心そうな、飄々とした姿からは想像できない世話の焼きようだ。肩に置かれた手のひらが頬を辿り、その流れに任せてごく自然に正面の男を見上げた。
「じゃあ、少佐。約束ですよ」
「ああ。――死ぬなよ」
青空の色をした双眸と視線をまっすぐ合わせると、少尉はさっきの無機質な態度が嘘のような強い光をその瞳に宿して、身をかがめた。
近づいてくる眼差しに絡めとられるような錯覚に陥った瞬間、額に柔らかな感触がしてすぐさま離れる。
上着を被ったままの少佐の額にくちびるを落とした少尉は、耳元で静かにささやいた。
「死にませんよ。俺の命はもうあんたのものだ。――少佐こそ、ご武運を」
静かな気配が消えるのとほぼ同時に、体の力が抜けた。
ここに来るまでなんとか自己を保っていられたのは、いろんな感情が溢れて限界値を超えていたせいだ――自身で気づいた時には慌てて駆け寄ってきた親友の腕に抱きとめられていた。
「ロイ!?大丈夫か!?」
これ以上ないくらい不安を映した緑の瞳に、ああ、自分を心配してくれる奇特な人間もいたのだったと暢気に思う。何故あのときすぐに思い浮かばなかったのか申し訳なく思ったが、謝るより前に告げておくべきことがあった。
別に、今伝えずとも構わないことであるはずだ。
だけど。自分でもコントロールできない焦燥にとらわれて口を開いた。
はやく、誰かに、彼の存在を。
これは現実なのだ、と。
「ヒューズ……犬を、拾ったんだ」
「は?犬?」
「少尉の肩章をしていたが……あれは犬、だな……」
「ロイ!?――おい、救護班!早く来いっ!!」
落ち着け、私は救護班じゃなくて整備班だ。
焦りのあまりか自分が抱えているものを人と間違えている親友に言おうとしたが、音にはならずに視界も暗くなってゆくのを止められない。エナジィもギリギリだったのだろうか。
暗い視界の中で考えたのはさきほどまで傍にいた金髪に青い目をした少尉のこと。
会って数時間しか経っていないはずなのに、まるで何年も前から一緒にいたようだった。馬鹿だ馬鹿だとは思ったが、どこかで同じだ、と感じたからだろうか。
……そういえば、結局私もマシノイドだと言わなかった。
あの冷たいけれど燃えるような青の瞳をした少尉は、少佐――ロイを人だと思い込んでいたようだ。
次に会ったら、私もおまえと同じだと教えてやらないと――。
そこでロイの意識は闇に沈み。
目覚めた時には、彼の戦争は終わっていた。
End.
全てを飲み込む焔は、自分の右手から放たれていた。
目の前を覆う一面の白のその中に、何がいるのかなど考えない――考えてはいけない。
そう、所詮己は機械人形――考えるな。考えるな。
白い焔はますます温度を上げて、何もかもを消していく。
― すくいあげられた君と僕 act.3 ―
「少佐、大丈夫ですか?」
「……ああ」
少し、意識が飛んでいたらしい。
自分を運ぶ声に応えて、少佐は重い目蓋を持ち上げた。
何か考えごとをしていたような気もするがうまく思い出せない。
「……どうした?」
「俺はここまでです」
「……ヒューズ……?」
遠い視線の先を辿ると、見知った親友と、部隊の姿。
近く、大きな岩がある日陰にそっと降ろされた。
ざらりとした砂の感触はもう慣れたものであるはずだったが、やけに冷たく感じて小さく身震いすると、すかさず着せ掛けられていた上着を掛けなおされる。何事にも無関心そうな、飄々とした姿からは想像できない世話の焼きようだ。肩に置かれた手のひらが頬を辿り、その流れに任せてごく自然に正面の男を見上げた。
「じゃあ、少佐。約束ですよ」
「ああ。――死ぬなよ」
青空の色をした双眸と視線をまっすぐ合わせると、少尉はさっきの無機質な態度が嘘のような強い光をその瞳に宿して、身をかがめた。
近づいてくる眼差しに絡めとられるような錯覚に陥った瞬間、額に柔らかな感触がしてすぐさま離れる。
上着を被ったままの少佐の額にくちびるを落とした少尉は、耳元で静かにささやいた。
「死にませんよ。俺の命はもうあんたのものだ。――少佐こそ、ご武運を」
静かな気配が消えるのとほぼ同時に、体の力が抜けた。
ここに来るまでなんとか自己を保っていられたのは、いろんな感情が溢れて限界値を超えていたせいだ――自身で気づいた時には慌てて駆け寄ってきた親友の腕に抱きとめられていた。
「ロイ!?大丈夫か!?」
これ以上ないくらい不安を映した緑の瞳に、ああ、自分を心配してくれる奇特な人間もいたのだったと暢気に思う。何故あのときすぐに思い浮かばなかったのか申し訳なく思ったが、謝るより前に告げておくべきことがあった。
別に、今伝えずとも構わないことであるはずだ。
だけど。自分でもコントロールできない焦燥にとらわれて口を開いた。
はやく、誰かに、彼の存在を。
これは現実なのだ、と。
「ヒューズ……犬を、拾ったんだ」
「は?犬?」
「少尉の肩章をしていたが……あれは犬、だな……」
「ロイ!?――おい、救護班!早く来いっ!!」
落ち着け、私は救護班じゃなくて整備班だ。
焦りのあまりか自分が抱えているものを人と間違えている親友に言おうとしたが、音にはならずに視界も暗くなってゆくのを止められない。エナジィもギリギリだったのだろうか。
暗い視界の中で考えたのはさきほどまで傍にいた金髪に青い目をした少尉のこと。
会って数時間しか経っていないはずなのに、まるで何年も前から一緒にいたようだった。馬鹿だ馬鹿だとは思ったが、どこかで同じだ、と感じたからだろうか。
……そういえば、結局私もマシノイドだと言わなかった。
あの冷たいけれど燃えるような青の瞳をした少尉は、少佐――ロイを人だと思い込んでいたようだ。
次に会ったら、私もおまえと同じだと教えてやらないと――。
そこでロイの意識は闇に沈み。
目覚めた時には、彼の戦争は終わっていた。
End.
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