忍者ブログ
鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


リアルタイムでお付き合いくださった方も
今ここを読んでくださってる方も
ご覧頂きましてありがとうございます
そんな6月祭りログ第三弾 長いのでひとつだけです





7.長い階段×かくれんぼ / ※長い上になんかよくわかんない話 / ハボロイ / 100614


くるくる、くるくる。
どこまでも続く、先の見えない螺旋階段をひたすら登る。
くるくる、くるくる。


延々と続く階段を登りながら、私はハボックを探していた。
白い螺旋階段は上を見ても下を見ても。
先も終わりも見えずに続いていて、私はそれを黙々と上っている。

私はこれを上り切らねばならない。
そこに疑問を呈する余地はない。
だが、これはいったいどこまで続いているのだろう。
見上げた階段の先で、わずかに金色が光った。

「ハボック?」
「ハボック少尉なら、下ですよ」
「中尉」
「もう上らないと言っていましたから」

螺旋階段の途中に佇んでいた私の副官は、なぜかあの戦場の時の姿だった。
まだ髪が短く、少し幼い顔をした彼女は、これだけは変わらないいつもの冷静な表情で告げる。

「そんなはずはない」

ふるふると頭を振って中尉の言葉を否定する。
私は追いついて来いと言ったのだ。
あいつが止まっているなんてありえない。
たとえ何かがきっかけで上れなくなったとしてもあの手この手で這い上がってくるはずだ。

……ひょっとしたら、もっと上にいるのかもしれない。
あいつのことだ、私に気づかずどんどん進んでいったなんてことも十分考えられる。
きっとそうだ。

「うん、私はいくよ、中尉」
「お気をつけて。"私"をよろしくお願いしますね」

最後に小さく微笑んで私を見送ってくれた中尉は、まだ彼女が軍人になる前の姿になっていた。

螺旋を上る。
くるくる、くるくる。
ハボックはなかなか見当たらない。

「おやおや、お一人ですか?焔の錬金術師殿」

まだまだ先は遠い。
くるくる、くるくる。
ハボックはどこにいるのだろうか。

「ちょ…待ちなさい!人が話しかけているのですから返事くらいしたらどうですか!」

だいたい私がこんなに探しているのだから、さっさと出てくるべきなのだ。
くるくる、くるくる。
いつもいつも、あいつは変なところで鈍い。

「――私はあの犬の居場所を知っています、と言ったらどうです?」

ぴたっ。くるり。

仕方なく振り返った先では趣味の悪い全身白いスーツを来た長髪の男がいた。
こちらが反応を示したことに少し安堵したようだが、そんなことなど思っても見ない素振りで呆れたようなジェスチャーをする。

「まったく…人の話はきちんと聞くものですよ」
「ハボックはどこだ?」
「探してどうするんですか?」
「どこだと聞いている」

睨むと、男は私を哂った。

「彼を縛り付けて、どうすると?」
「別に縛り付けてなんてない。私は探しているだけだ」
「では、探してどうするんですか?見つけたら?」

あいつを見つけたら?
そんなこと決まっている。
私は――。
ふいに黙り込んだ私に、男はもう一度哂った。

「そうやって、貴方はいつまでも探し続ければいい」

居場所を知っているといったのは結局嘘だったらしい。
最後まで趣味の悪い白スーツで男は螺旋階段を下りていった。

私は再び螺旋を上る。
くるくる、くるくる。
ずっと同じ動作を繰り返しているのに、足に溜まるはずの疲労感はまったくなく、同様にいくら階段を上っても頂上に近づいている気がしない。
くるくる、くるくる。
あいつはかくれんぼでもしている気になっているのだろうか。

「よ、ロイ」
「ヒューズ」

階段から少し離れた場所でヒューズが文字通り浮いていた。

「おまえもとうとうデタラメ人間の仲間入りをしたのか」
「馬鹿言うな。俺はこれでいいんだよ」

手を伸ばしたら届きそうで、でも決して届かない場所にふわふわと浮かびながら、ヒューズはにしし、と笑った。

「そうだヒューズ、ハボックを見なかったか?」
「ああ、見たぜ」
「どこにいた?」
「どこって……うーん」

腕組みして悩んでいるところを見ると、本気でなんというのか困っているらしい。

「分からないのか」
「うーん、そうだな…ま、おまえならたぶん見つけられるだろ」
「そうか?」
「そうそう。……どっちが先に見つけるか見ものだな」
「なんだって?」
「いやいや。たぶん間違ってないから、まあ頑張れやロイ」

この男は適当が信条なんじゃないかと思うくらい軽い言葉が返ってきて、少々憮然としながらも頷く。
ふわふわと浮かんだ男はふわふわと笑って私を見た。

「わかった。ではまたな」
「おまえはまだそっちにいるんだ、頑張れよ」

なにやら不可解なことを言ってまた適当に手を振るヒューズに手を振り返して、私はまた螺旋階段に向かう。
くるくる、くるくる。
まだまだ先にいるのだろうか。


ヒューズと話したあとも、いろんな人に会って話をして、別れを告げた。
知らぬ顔も、よく見知った顔も、どこか懐かしくなる顔もあった。
だが、なぜかあいつだけが現れない。
いい加減私も疲れてきた。

ただひたすらに白い螺旋が続く場所で、とうとう足を止める。
もういい、もう十分だ。
期待するのもいつまで続くか分からない螺旋を上るのも―――。
座り込もうとした、その瞬間。


「やっっっと、見つけた……!」


「ハボ、ック?」

背後から抱きしめてくる腕の強さと、漂う煙草の香りが、たった今まで私が探していた人物だと言うことを告げた。
驚いて動けなくなっている私に構わず、ハボックはまくし立てるように話す。

「あーもうやっと見つけた!あんたどこ探してもいないし、待ちくたびれちまいましたよ」
「おまえこそ、どこに隠れていたんだ」
「俺は隠れてなんかいませんって。隠れてたのはあんたでしょうが。…まあちょっと時間はかかりましたけど、俺は間に合ったつもりですよ?」
「間に合う?」
「置いていくから追いついてこいって言ったのはあんたです。忘れちまいました?」

さらりとそういって。
大変だったんですよ、階段登ってたら反対の階段に大佐がいて慌てて移動したら消えちゃったり、変な白いスーツのおっさんに絡まれるし、なんかちょっと小さくなった中尉には撃たれそうになるし、中佐には散々遊ばれてから落とされそうになるし!まあ大佐が見つかったからなんでもいいですけど!
楽しそうな、嬉しそうな気配を隠しもしないままますます強く抱きしめてくる。

私と同じ、螺旋を上っていたのだろうか?

どんどんきつくなっていく腕の中でもがいて、ようやく振り向くことに成功した私は、後ろの人物を見て目を丸くした。

「なんだその髭は」
「似合いません?」
「似合わん」
「えー男っぷりが上がったでしょー?」
「……」
「あれ、本当に似合わない、スか…?」

黙り込んだ私に焦って尋ねてくる。
かつて若造もいいところだったはずの部下は、髭のせいか根底の何かが変わったのか、ひどく男くさい顔になっていて、だが浮かぶ表情はあのころと変わらぬもので。
そのギャップが妙に私の心に響いた。
だが、それをあらわす言葉を捜そうとしても、私の口からこぼれるのはいつもと変わらない素っ気無いもの。

「おまえはおまえだろう、別にどっちでも構わん」

なのに、そういった先で目の前の青い瞳はこれ以上なく柔らかく細められて。
やっぱり大佐だ、と言われて反論しようとしたくちびるは、言葉を紡ぐ前にふさがれた。


いつの間にか、私たちのいる場所はあの螺旋階段でなく、踊り場になっている。
少し離れたところからまた始まっている、今度は螺旋状ではない階段に私を抱きしめたままハボックが目をやった。

「あんた、一人で上る気だったんですか?」
「む……そんなことはない、ぞ」

さっきまで一人で螺旋を上っていた手前、あまり強く言えずにいると、呆れきったため息。

「まったく、ほっとくとすぐそれなんだから」
「別に、おまえたちを信頼していないわけじゃ――」

顔を上げて言いかけたくちびるに今度は人差し指が触れて、言葉を止められる。

「分かってますよ。あんたが俺たちのことを考えてるからこそ、ついつい一人で上ろうとしてしまうのも。だけどね」

晴れ渡った空のようなどこまでも吸い込まれるような青がまっすぐこちらを射抜く。

「俺はあんたに追いついて見つけて捕まえたんですから」

先の見えない螺旋階段はなくなって。

「いっしょに上って。いっしょにたどり着いて、みんなで。同じもの見ましょうや」

目の端にうつる階段の先が、みるみる近くなっていく。

「――ね、大佐?」


くるくる、くるくる。
円を描くことはなくなった階段はまだまだ長く続くけれど。
もう、その先が見えなくなることはない。






PR

[31] [32] [33] [34] [35] [36] [37] [38] [39] [40] [41
«  Back :   HOME   : Next  »
Information
女性向け二次創作テキストサイト。
版権元とは一切関係ありません
禁・無断転載

管理人 柚 (雑記)

何かありましたら拍手からどうぞ
  レスは雑記にて
TweetsWind
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]