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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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いつもよりぐっすり眠れた気がする、とすっきりした気分で起きたら。
「…………あ?」
なんのことはない、いつも起きる時間を大幅に過ぎた時刻だった。


「休み?ハボックが?」
「ええ、夏でもないのに風邪ひきやがったんですよあのバカ!」

そのバカの代わりに送迎に来たブレダが呆れて言うのに、出迎えた私――ロイ・マスタング、地位は大佐だ――は扉を開いたまま思わず空を見上げた。
――青い。

「……今日は槍でも降るのかな」
「そう仰りたい気持ちはよっっく分かりますが、早く準備してください!!」

昨日とはうって変わって晴れ上がった空に呟くも、中尉に殺される!という半ば悲鳴のようなブレダの叫びに掻き消えて、慌てて自室へと舞い戻った。


***


執務室で中尉に怒られている。
上官が部下に怒られるなど他の司令部の人間が聞いたらありえないと言うだろうが、仕方ない。
今現在、誰がどう見てもこの美しくも厳しい部下に怒られているのだから。
東方司令部では上官を怒る部下という光景は、しばしば目撃されていたりする。
私の部下は優秀なだけに上官にも要求するレベルが高いのではないだろうか……。

「いいですか大佐。遅刻をしないでくださいという要求は高いレベルに入りません。むしろ世間一般の常識です」
「う」
「気分転換と称される脱走もです」
「む」
言葉を返せずにいると中尉は溜め息をついて言った。
「それで、今日はハボック少尉がいなかったから遅刻なさった、と」
「……ああ」

時間にして約1時間の遅刻。
朝からお偉方の視察や会議などが入っていなかったのが唯一の救いだ。
その代わりといってはなんだが、最近できなかった書類仕事が朝の数時間に宛がわれていたらしく、書類の山に囲まれている。
それもこれも全部アイツのせいだ。

何がきっかけだったかもう忘れたが、護衛官になってしばらく経ってから私の家の合鍵を持たせたら、いつの間にやら迎えに来る時間よりもずいぶん前に家にやってくるようになっていた。
ギリギリまで寝ていられて、起きたら温かい朝食ができているという生活は一度知ってしまうともう無理だ。
――やめられないだろうが。
だいたい風邪だと?馬鹿は風邪をひかないのではなかったのか?

「――大佐?」
「っ!すすすすまない中尉!!今度からは――」
「少尉のことでしたら構いませんが」

さらりと言われた言葉に驚いた。

「いいのか?」
「彼が自主的にやっていることです。大佐が嫌だと仰るならやめさせますが?」
「わ、私は嫌ではないが……」
「でしたら、せっかく大佐が定時に来てくださっているのに、私に止める理由はありません」
「そうか…」

その言葉に安心したような息をついた自分に気づいて首をかしげたが、あの朝の時間がなくなってしまうのはやはり惜しかったのだと思って納得した。
たっぷり寝ていられるのは何よりの贅沢だ。

「ですが、こういうこともありますので」

ほっと息をついた瞬間――まるで狙ったかのようなタイミングで――中尉から厳しい声が飛んでくる。

「少尉ばかりに頼らず、ご自身で起きる努力をなさってください」
「わ、わかった」

誰だって銃の的は嫌だ。
だが、中尉の次の言葉にはさすがに目を剥いた。

「では、今日中にこの書類を仕上げてください」
「これ全部!?」
「何か問題でも?」
「……ありません」

……そう、この山は私の能力が試されているのだと思えばいい。
そうして私は、逃げ出したくなるような書類の山を切り崩すことに取り掛かっていった。

だから、中尉が執務室を出た後で、
「便利で助かっていたけれど、こういう時は困るわね……」
なんて呟いていたことなど、知らずにいた。


***


中尉が出て行ってから、1時間。

「……つまらん」

外は快晴、温度も適温、涼しげな風が吹いている。
絶好の昼寝日和なのに、どうして部屋に閉じこもって書類と向き合っていないといけないのか。
こんな日に限って、いつも枕にしている犬は風邪でいないときている…というか、元はといえばあいつのせいだ、この山は。
さすがに脱走する気にもなれなくて、椅子にもたれて天井を見上げて、呟いた。

「……コーヒーが飲みたい」

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管理人 柚 (雑記)

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