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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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久しぶりの休日に自宅でのんびりと午睡を楽しもうとしていた矢先、半ば強引に外へと引っ張り出され、ロイは少々不機嫌だった。
見せたいものがあると言って、彼を明るい陽の下へと連れ出した青年はそんなことにも気づかず――気づいていない振りという可能性もおおいにあるが――どんどんとロイの知らない小道へ入っていく。もともと上官である自分の送迎も務める護衛官であるから、彼がこの街の道に詳しいのは当然のことだ。だけど今は何故かそんなことも面白くなくて、ロイは楽しげに先を歩く青年の背中をじとりと睨むのであった。

そうして彼の背中を見つつ歩くこと少し。青年は何の変哲もない家の扉の前で立ち止まった。
「つきましたよ」
「……此処は?」
「ま、とりあえず入ってみてください」
悪戯っぽい瞳で扉を開けるよう促す相手を不機嫌なまま不審そうに見るも、それ以上言葉を重ねる様子がないのを見てとって、ロイは小さく息をつき、古びた扉へと手をあてて押し開いた。

その空間には、なにもなかった。
四方をのっぺりとした白い壁面に囲まれ、床の中央あたりに光が落ちている。
唐突に現れたまるで人を拒むかのような真っ白い壁にやや気圧されるも、これが彼の言った「見せたいもの」だとは思えずその場に踏みとどまる。
中央のぼうっとした光と、高さのある天井につられて上を見上げると。

一面の白の中、四角に切り取られた青が目に飛び込んだ。

「絵?……いや、本物……?」
床までほんのりと差し込む光は人工のものでなく、本物の太陽光だ。
「さぁすが大佐。正解です」
ロイの見上げた先には、天井の中央に開いた穴に切り取られた青い空が、ぽかりと浮かんでいた。
どういう仕組みかわからないが、天井と空洞の境目に屋根の厚みが見えなかったため、絵――平面とも見紛う作りになっているようだ。
光が中途半端に反射しないところを見ると、ガラスも入っていないのだろう。
「此処のヤツ、自称芸術家なんですけどね。そいつが一番最初に創った作品らしいっスよ。変わってますよね」
「ああ。……すごいな」
少し後ろに立つ青年が面白そうに言うのに、それまでの不機嫌も忘れ無心で返す。
自然の空と、真っ白い人工の空間が形作る。不思議な光景だ。
漆黒の瞳は刻々と変化する空の様子を焼き付けるかのように見開き、まばたきも惜しむように上を見た。

一方、そのあまりの熱心さに、傍の青年――ハボックは徐々に面白くなさそうな表情を浮かべる。
確かに連れてきたのは俺だけど――ちょっと見すぎじゃねえ?
この自然をそのまま使った、だが自然では見ることができないだろう人工の創作物を初めて目にしたときに、一緒に見たいと真っ先に浮かんだ想い人に、ようやくその光景を見せることができたというのに。
傍の自分の存在すら忘れたように空を見上げる姿にハボックはなんとも言いようのない気分になり、その視線をこちらに向けるべく動く。
空にさえ妬くようになってしまった自分自身も、全てはこの人のせいだと転嫁して。
「たい……」
「ああ。どこかで見たことがあると思ったんだ」
ぽんと手を叩きそうな様子で一人納得したロイが振り返り、ハボックが彼を引き寄せようと伸ばした手は空を切った。
「…………何がです?」
中途半端に空いた自分の手をしばし見つめてから問うたハボックに、ロイは新しい発見をした幼い子どものように瞳をきらめかせ、どこか嬉しそうに、四角い真っ青な空を指差して言った。

「これ。おまえの目の色とそっくりだ」

――スカイ・ブルーの瞳を持った青年が、天然の恋人を抱きしめるまで、あと少し。




金沢旅行に行ったときに思いついたネタ。
21世紀美術館のタレルの部屋がモデルです……すいません(なんとなく)
天然でラブいカップルが大好物です。割を食うのは周囲。
タイトルはbe in love with flowerさまの選択式お題より。
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管理人 柚 (雑記)

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