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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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ロイ・マスタングが「それ」を見つけたのは、偶然だった。

冬を感じさせる寒い朝。
その日はなんとなく早く部屋を出る気分になって、いつもより一時間も前に外に出た。
明け方まで降っていたまだ新しい雪の残る道をさくさくと歩く。
誰も歩いていない雪の上に、ひとりぶんの足跡が続いていく。
今日も雪が降るだろうか。そうしたら明日も早く出て足跡をつけてみようかなどと他愛もないことを思いながら歩いていると、研究所の前の門のあたりで検問の兵士が二人がかりでなにやらひきずっていた。
いつものロイなら気にも留めないところを、きらりと何かが光るのが見え、珍しく興味を引かれて覗き込む。

「どうした?」
「あ、おはようございます大佐殿!」
「すみません、今すぐどけますんで……」

ロイに気づいて慌てる兵士たちをよそに、その言葉を聞いたロイはもう一度ひきずられていたものに視線を落とした。
ものかと思っていたそれは、ヒトだった。
黒のシャツにジャケット、ジーンズの、いたって軽装の金髪の男だ。
さきほどの光はこいつの金髪が光に反射したのかと納得する。
酔っ払いがこんな服装で潰れて寝ていたら、確実に凍死する季節。死体かと思われたが、それにしては血色もよく死体特有の硬直や死斑もない。そして、いかに大柄な体格といえど、軍の男二人で運ぶのに苦労する重さとなると――。

「――マシノイドか」
「はあ、夜中に誰かが捨てていったらしく…」
「たまにいるんですよねえ、うちは研究所で廃棄場所じゃないってのに」

捨てるよりもどっかに下取りに出す方が売れるでしょうにねえと言う若い兵士の声を、倒れている青年に目をやったまま耳にしていたロイだったが、ふと顔を上げてもう一人の年かさの兵士に問いかけた。

「こいつは、廃棄処分になるのか?」
「ええ。どうも壊れちまってるみたいですし」
「では、私がもらっていってもかまわないな」
「は?」
「何か問題でも?」
「いえ、ありません!」
「あ、んじゃこいつは中に……」
「ああ、いい。私が運んでいく」
「え!?」

気を利かせた若い方がもう一度その男に手をかけようとしたのを制して、ロイはその自分より大きな男をひょいと肩に担ぎ上げ、そのまま研究所の入り口へ向ってすたすたと歩いていく。その足取りはしっかりとしていて、とても人――実際はそれよりも重量のあるマシノイド――一人抱えているとは感じさせない。

「せ、先輩!あれ100kg以上あるんですよ!?」
「黙っとけ、あの人は――」

背を向けた先、驚きを訴える兵士を年配の兵士がなだめていたが、もうロイの耳には入っていなかった。


* * *


入り口でいつものように簡単なチェックを受けた後、ロイは慣れた様子で複雑な廊下を進み自らに宛がわれた研究室に入る。仮眠用のベッドへと男を降ろして、自らは少しはなれたところにある椅子を引き寄せて腰かけ、腕を組むとおもむろに口を開いた。

「――狸寝入りは感心せんな」
「…………」
「それとも、捨てられるのが望みだったか?」

だったら邪魔をした、というロイに、壊れて動かないはずの青年の目蓋がぴくりと震え、ゆっくりと持ち上がった。目蓋の下からガラスのような青い瞳が現れる。ロイは驚くことなく、じっと天井を見上げる男を見やった。

「何か言ったらどうかね」
「……すんません。知らない人に、いきなり頼むことじゃないんすけど、」

首は動かさぬまま、視線だけをロイへと向けて話す声は、若いが冷静なものだ。
やけにのんびりとした話し方をする、と思った。
金の髪に青い目の青年は、話すこと以外に身体をぴくりとも動かさずロイに頼む。

「ちょっと……止まりそうなんで、ゼンマイを、巻いてもらえませんかね」
「…………ゼンマイ?」
「はあ」
「ゼンマイ……」

ロイは彼にしては珍しく、すぐさま理解することができずに言葉を繰り返し――理解すると、途端に青年に食って掛かった。

「待て。おまえ、ゼンマイで動いているのか!?」
「そう…っス。けど……それ、は後、にして、はやく、巻いてもら、わねえと」

徐々に間延びしていくしゃべり方に、慌ててロイは男の体を探り、背中の右下、腰あたりにあるゼンマイを見つけてキリキリと巻いていった。





タイトルはbe in love with flowerさまより。

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管理人 柚 (雑記)

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