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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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仕事を終えて向かった先で、マース・ヒューズは勝手知ったる家におざなりなノックをした。

「ロイー、入るぞー」

適当に声をかけて返事を待たずに――今さら家主に文句を言われる間柄でもない――家の中へと入る。しかし、この日ばかりはいくら外の雪が冷たくても横着せずにベルを鳴らすべきだった、と、居間を見て後悔した。

「ヒューズ?どうしたんだ」
「……ロイ。何してんだ?」
「……昼寝?」
「今は夜だ。……いやそうじゃなくてな」

ある科学者の技術の粋を集められて作られたこの国最高峰のマシノイドであり、彼の親友でもあるやや童顔の男は、暖炉の火が爆ぜる暖かな部屋の中、見知らぬ青年の膝に頭を預けてだらけていた。
予想外すぎる展開にヒューズがなんと言っていいのか言葉を探していると、ロイが合点したように頷いた。

「ああそうか。おまえ、コレを見にきたんだろう」
「はぁ?」
「違うのか?」

会話が噛み合わず互いにきょとんとすると、コレ呼ばわりされている話題の主がロイに苦笑しながら告げる。

「だから、俺はちゃんと言った方がいいですよって言ったじゃないっすか」
「私はちゃんと言った」
「あんたの話は分かりにくいんですよ」

ここまで、ヒューズを目にしてもだらだらとソファの上で青年の膝に懐いたままのロイと、青年の会話だ。
そしてその体勢を崩さずに――たぶん止めたらロイが怒るんだろうが――飄々とした態度でヒューズへ挨拶するあたり、この青年もけっこうイイ性格をしていると思われた。

「初めまして、マース・ヒューズ中佐。ジャン・ハボックです」

そこで、ようやく。ヒューズの停止していた思考が回転し始める。

「…………なあロイ。この前電話で言ってた犬を飼った、つーのは」
「うん。なかなか優秀だぞ」
「優秀っておまえ……」

まだごろごろしながら読みかけらしき本に手を伸ばすロイと、「寝ながら読んだら目が悪くなります」なんていって本を遠ざけている青年――ハボックを、ヒューズは唖然と見ていたが、どっと疲れてソファに腰をおろす。
テーブルの灰皿を引き寄せて取り出した煙草に火をつけ、まじまじと向かいの青年を見た。
電話口でロイが大型犬と評しただけあって、身長も高く筋肉質だが、どこか茫洋とした雰囲気があまり威圧感を感じさせない。金髪碧眼は特に珍しいものではないが――

「…………初対面、だよな?」
「はあ」
「軍人か?階級は?」
「私の私的な護衛だから、軍属ではないんだ」
「へえ……」

社交はそつなくこなすが、実際は人と関わることを極端に嫌う彼がプライベートで護衛――しかもこの様子だと間違いなく一緒に住んでいる――とは。
ヒューズが少し考え込むように顎に手をやれば、ようやく体を起こしたロイが、何を懸念したかムッとした調子で言った。

「これは私のだからやらんぞ、ヒューズ!」
「あーはいはい分かってますよ。ロイちゃんのわんこ取る気はねえっての」
「誰がロイちゃんだ!」
「……おまえ?」
「ヒューズ!!」
「大佐ぁー、そろそろケーキが焼けたころだと思うんですけど、食べます?」
「…………食べる。あと紅茶。」
「了解っス。中佐はコーヒーですか?」
「あ、ああ」
「分かりました。――じゃ、ゆっくりしてってくださいね、中佐」

絶妙のタイミングで不機嫌になりかけたご主人様の気を抜いて、のんびりと、だが無駄のない動きで部屋を去っていく。
金の髪と少し猫背気味の大きな体も相まったその様子は、まさしく。

「犬だろう?」
「……犬だな」

面白そうに言うロイに、ヒューズも納得せざるを得なかったのである。




しかし、いくら犬のようであっても、ジャン・ハボックは犬ではない。
本物の犬であれば可愛い話ですむが、人――実際は素性もよく分からないマシノイドだと聞かされれば、そんなわけにもいかない。彼の親友に危害を加える可能性もゼロとはいえない。
それに加えて、彼にはひとつ気になることがあった。

キッチンの入り口の柱にもたれたヒューズは、こちらの気配に気づいているだろうに知らぬ振りをしている背中へと話しかける。

「おい、そこのわんこ」
「大佐以外に犬って言われる覚えはないんスけど」
「おー、言うねえ」

答えるハボックはロイのためのデザートを準備する手を止めることなく、それどころか背を向けたままだ。だがそんな彼の態度に気を悪くすることもなく、ヒューズは笑って続ける。

「手伝ってやりに来たんだぜ?」
「好きでやってますから。……大佐はどうしたんすか?」

ちらりと肩越しに友好的とは言いがたい視線を向けられ、苦笑しながら肩をすくめる。

「フラれた。俺より本の方がいいんだとさ」
「……夕方に届いたばっかりのやつですから。中佐も向こうでゆっくりしてください」

微妙に複雑そうな顔をしているところを見ると、構ってもらえなかったのは自分だけではなさそうだとヒューズは喉を鳴らす。そんな彼を気味悪げに見つつ、やんわりと、だがきっぱりと申し出を退けてこまごまと動く青年へ、ヒューズは彼独特の気さくな空気はそのまま、その瞳を僅かに眇めた。

「ジャン・ハボックって言ったか」
「はあ。そうっスけど」
「――おまえ、『少尉』か?」

ピタリと動きが止まる。
静かに振り返ったハボックは、奇妙なほど無表情だった。

「……俺は軍属じゃないって、大佐が言いませんでしたっけ」
「俺はおまえに聞いてんだ。いいか、おまえは、『少尉』か?」

周囲の人間が聞いたら何を不可解なことをと首を傾げるような質問を繰り返した中佐に、青年は無表情のまま目を細める。
ぶつかっていた視線を先に逸らしたのはハボックのほうだった。
一度目を伏せてから、静かに男を見る。

「――俺は、大佐の犬で、護衛です」
「……そうか」

質問への答えではなく、だが確固たる何かをもって告げられた言葉と真剣な瞳に、ヒューズもそれ以上深く尋ねることはしなかった。
最初に聞いた時点で彼の疑問は解けていたので、

「だったら、いいさ」

どこか噛み締めるように呟いて、その話を終えた。




タイトルはbe in love with flowerさま。
閉鎖されたのか、リンク先を見失いました……。
すごく好みなお題ばかりで創作意欲をかきたてるサイト様でしたので非常に寂しいです。
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管理人 柚 (雑記)

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