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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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今日の地区は、隣国の要となる場所だった。

この戦争の勝敗は数日前から明らかだったが、かといって一国家がそうも簡単に降伏するわけもない。
降伏を促しているというが、まだ攻撃停止の命令が来ないところを見ると隣国――クセルクセスの中枢に抵抗する人間たちがいるのだろう。
命令が来ないもうひとつの理由の可能性を頭の中で故意に打ち消して、アメストリスの少佐はぼんやりと目の前の揺れる金色を見た。
この戦争への疑問は尽きぬが、いまや単なる殺戮兵器と化した己には意味のないことだった。





― すくいあげられた君と僕 act.2 ―





それなりに重量があるはずの自分を軽々と背負いあげ、砂漠の乾いた砂を踏みしめて進む背に揺られていく。
日差しはいつものように強い。肌が焼けるという表現が生ぬるいと感じるほどに攻撃的な太陽の照りつけと、乾いた風が身体から容赦なく水分を奪っていく。
人間と違うのは、汗をかこうが脱水症状で死ぬことがない、ということだ。

自分を背負う男はただ黙々と歩みを進めている。
迷いのないその足取りは、目的とする場所も分かっているらしかった。

「少尉は、終わったらどうするんだ?」

少佐は何が、とは言わなかったし、少尉も何が、とは聞かなかった。

「廃棄でしょうね」

その代わり、あっさりとした答えが返る。

「廃棄?」
「こんな物騒なマシン、戦争以外で必要ありませんよ」
「…………」
「ま、そのときになってみなきゃ分かりませんけど」

さきほど、自分を怒鳴りつけた時よりも幾分柔らかい声音で少尉は先を続ける。

「だいたい、あんたの国だって敵国の戦闘マシンを野放しにするわけないでしょ?廃棄じゃなかったらよくて実験体とか――」
「おまえはそれでいいのか?」
「はあ、まあ。特に生きる理由もないですし」

さきほど同様、なんの感慨もなく返ってきた言葉に、それが本心であると分かって。
少佐は無性に腹が立った。

勝手に人を生かしておいてだ。
自分はそのうち死ぬだと?
誰が死ぬのもごめんだと、私はこんなところで死んでいい人間ではないと、そう言ったその口で?

「……あの、少佐?」

しかも、こいつはそれを全く分かっていない――自分勝手の大馬鹿もいいところだ。
そして、そんな大馬鹿に助けられた私はもっと馬鹿だ――。

「――決めたぞ」
「はい?」
「おまえ、終わったら、私のところに来い。飼ってやる」

この馬鹿を、一から叩き直してやる。
私を助けておきながら、自分はどうなってもいいというその根性が気に入らん。

先刻までの自暴自棄になっていた自分をすがすがしいまでに棚上げして。
少佐がきっぱりと言い切ると、非常に戸惑う気配がした。

「…………えー、飼うっつーと、犬っころみたいに?」
「ああ。私が飼ってやると言っている」
「本気ですか?」
「冗談だと思うか?」

少しの沈黙。

「……半々くらいで」

渾身の力で目の前の金髪を殴った。

「ってえ!!何するんスか!」
「やかましい!自分に聞け!」
「……っとに、一回落としてやろうか……」
「主人を落とす犬など問題外だ。さっさと歩け」
「……うわ、可愛くなくなってる……」
「何か言ったかね少尉」
「ノー、サー」

フルパワーで殴ったにも関わらず、ふらついただけで倒れず、背負う自分を落とす気配もなかった。
この馬鹿は相当丈夫にできているらしい。
そのことになんとなく満足して、少佐は殴った金髪をわしわしと混ぜる。

「――それで?」
「へ?」
「まだ答えを聞いていない」
「あー」

少尉はあーとかうーとか意味不明なうめき声を上げている。
自分にしてはかなり辛抱強く待っていると、ちらりと視線を寄こされた。

「……あの、お忘れかもしれませんが」
「なんだ?」
「俺、一応敵国のマシンなんスけど」
「そうだな」
「そうだなってあんた……」
「ふん。往生際が悪いぞ」
「……おうじょうぎわ……」
「おまえは私の敵か?」
「いいえ」

即答した金髪の少尉に、自然と口角が上がるのを感じる。

「ほらみろ。何も、問題ないじゃないか」
「ああもう――――」

神への祈りか冒涜か。
彼は何ごとか呟いてからこれ以上ないくらい深々と嘆息して。
少々ヤケ気味に言った。


「そうですね。――あんたの犬になるのも、悪くなさそうだ」


その返事に、少佐はこの地に来て初めて声を出して笑った。




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管理人 柚 (雑記)

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