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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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「おはようございます、大佐」
「ああ、おはよう中尉」
「――こちらは?」
「拾った」

その辺に落ちていた物を拾った――あえて言うならそんな口調で言い切ったロイ・マスタング大佐に、リザ・ホークアイ中尉は複雑な表情をもって返した。
彼女が見る限り、それはそんなに軽く拾ったり捨てたりできるものではないように見えた。

彼女の上司が、妙なものを拾ってくるのはいつものことだ。
たとえば、何に使うか分からない奇妙な道具やなにかの機械の部品の類、あるいは趣味の悪い置物などを拾ってきたのなら。「元の場所に戻してきなさい」とすっぱりばっさり切ることもできたが、さすがのホークアイも人間――しかも拾われたらしい当の本人を目の前に、そんなことは言えなかった。

「ハボック。リザ・ホークアイ中尉。私の副官だ」
「はじめまして。ジャン・ハボックです」

少し困った顔でホークアイに握手を求めてきた上司の拾い物は、長身で朴訥とした金髪碧眼の青年。

「リザ・ホークアイよ。……拾われたの?」
「拾われました」

握手に応えながら真面目に問うホークアイに、ハボックもこれまた真面目に頷く。

「研究所の前に落ちてたのを拾ったんだ。持ち主はいないそうだから、今日から私のだ」
「……大佐?」

この上官の言動には慣れているつもりだったが。
いいのかと視線を拾われた青年に向けると、困った顔のまま小さく笑う。

「事実なんでまあ……」
「そのうち私の護衛にする」
「は!?」
「――大佐」
「これは私の犬だから大丈夫だよ、中尉?」
「いやあんたその自信どっから来てるんスか!」

さきほどより幾分咎めるような響きをもった部下の言葉にも自然に返すロイに、素っ頓狂な声を上げた犬――ハボックが突っ込む。
犬呼ばわりされたことに気づいていないのかあえて無視しているのかは、彼の表情からはわからない。

「なんだ?経験がなくとも、おまえならすぐに覚える」
「いや俺は護衛職がこなせるかどうかを心配してるんじゃなくて!もし俺が敵国のスパイとかだったらどうするんです!?」
「スパイなのか?」
「違います。たとえの話ですよ。スパイじゃなくても、もし俺が悪いヤツの手先とかだったらあんた、あっという間に死んでますよ?もうちょっと危機感持ちましょうよ」
「なら今死んでないから、大丈夫だ」
「んなの分かりませんって。バレないようにじわじわ毒盛ったりとか、油断させて寝首をかくつもりだったりとか――って、何で俺がこんなこと言わなきゃならないんスか!」

話せば話すほどホークアイの視線が不審と殺気のこもったものになっていることに気づいたハボックが焦って言う。

「だって、おまえは私を裏切らないだろう?」
「そうですけど」
「だったらいいじゃないか」
「え、いや、でも、あれ……?」
「な?」

ここに彼の親友がいたら「理由にならねえよ」とあっさり却下するであろう理屈に混乱するハボックに、ロイは面白そうに微笑む。
その柔らかさに、ホークアイは今度こそ驚きで目を見張った。

「それにおまえ、誰かいないとゼンマイ巻くのに困るじゃないか。私がいないとダメだろう」
「ああ、確かにゼンマイ巻いてもらわなきゃ止まりますねえ」
「自分ではできないのか?」
「できることはできるんですけど、逆にエナジィ使っちまうんですよね。誰かに巻いてもらったほうが効率はいいんです」
「なるほど。自己供給は難しい構造になっているのか……」
「中見てみます?」
「いや、その必要はない」
「――ちょっと待ってください」

傍から見ていると気のおけない友人同士のようなやりとりを繰り広げている二人に、こめかみを押さえながらも衝撃から復活したホークアイがようやく割って入る。同時に振り返った二人の不思議そうな顔に頭痛が増した気がしたが、――今、聞き捨てならないことを言わなかったか。

「中尉?」
「ゼンマイ……とおっしゃいましたか?」

ゆっくりと言葉をかみ締めるように尋ねたホークアイに。
ロイはなんの感慨もなく、彼女に考える間を与えずに肯定した。

「ああ。ハボックはゼンマイ式だよ」
「――ゼンマイ式!?本当ですか!?」
「え、あ、はい」
「信じられない……」

呆然と呟く。
ホークアイも研究所に勤める者として、マシノイドや、それよりも前に隣国で開発されていたらしいウォーカロンについての知識は一般人よりも遥かに多い。
そんな彼女の知識に、ゼンマイ式でこれほど人間に近いマシノイドなど――見たことも聞いたこともない。

「中尉が驚くなんて珍しい」
「あんたも驚いてたじゃないっスか」
「普通は驚くんだ。でも中尉だから驚かなくてもおかしくない」
「どんな理屈です?」

暢気な会話にホークアイは我に返って、自身の上司に目を向けた。
こちらの様子を見ていたらしいまっすぐな黒い瞳と視線が絡む。


――こういう目をしている時は、ダメだわ。


彼が、どうして拾ったマシノイドを突然傍に置くと言い出したのかは全くもって不明であったが。
その瞳の奥にあるものを感じて、内心でこれから先を思いやる息を零し、彼の人の有能な部下であり、理解者でもある彼女は、背筋を正して口を開いた。

「大佐。彼の護衛は――決定事項でいらっしゃいますか?」
「決定事項だ」
「ちょっとあんた……!」
「――わかりました」
「え」
「手続きはお済みで?」
「まだこの施設への登録だけしかしてないんだ」
「え?」
「では本日中に全て処理しておきます」
「ありがとう中尉」

ホークアイへにこりと返す黒髪の上司の隣で、金髪の飼い犬は三度「え?」と呟いていた。




タイトルは自作です




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管理人 柚 (雑記)

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