鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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いつかの水槽に、いつのまにか金魚がいた。
「なんだこれは」
「金魚です」
「そういうことを聞いてるんじゃない」
朝日の差す窓辺で泳ぐ赤い魚を前にして言うと、恋人はやれやれといった風に肩をすくめる。
「夜の、しかも晴れた日にしか飼えないもの飼うより金魚の方が現実的じゃないですか。そもそもあんた、忘れてたでしょ、コレ」
「……そんなことはない」
「この金魚入れたの1週間前っスよ」
「………………」
無言で睨み上げると、しれっと顔を逸らされた。
そのとき目に入ったらしい置き時計が示す針の位置に「大佐」と少し焦った声で呼ばれ。
着替えの途中だったロイは慌てて動きを再開させた。
それが今朝のこと。
窓際では、久しぶりに捕獲されてた月が浮いていた。
以前と違って、その水面は時折ゆらゆらと揺れる。一緒に捕獲されている金魚のせいだ。
小さく開いた窓から入る風に開け放したカーテンが、水面と同じようにゆらゆらと揺れた。
ベッドからその様子を見るともなしに見る。
さきほどまで熱を持っているように感じていたシーツも今はひんやりとして身体の熱を冷ましてくれていた。
また、水面が小さく揺れ、月の輪郭がわずかに歪んだ。
今は寝室の窓際の水槽に、素直に捕らえられたふりをしている月は、朝になればあっけなく逃げていく。
残るのはハボックの入れた2匹の魚だけだろう。
それでも、少しの時間でも。捕らえてみたいとどうして思うのだろう。
そもそもどうして月を捕まえたいなどと思ったのか――
とりとめなく、背後にある熱と髪を撫でてくる指の気持ちよさにうとうとしていると、ハボックが思い出したように言った。
「そういえば、あの金魚ね」
「……あ?」
掠れきった声しか出ない喉に知らず顔をしかめると、目の前にミネラルウォーターの瓶が現れた。
いつまでたっても甲斐甲斐しい男だ、と思いながらも受け取り、行儀悪く寝転んだまま喉を湿らせる。
そういう時だけ器用なんだから、と呆れて苦笑しているらしい金髪の恋人の方へ寝返りを打って瓶を返した。
「――ん」
「一応、理由があるんですよ」
「――聞いてやろうじゃないか」
顔を上げると、上半身を起こしていた恋人はシガレットケースから煙草を取り出して銜えたところだった。
銜えるだけで火を点そうとはしない。
そういえば寝室では火をつけたことはないな、と他愛もないことを思い起こすロイの傍ら。
ハボックは悠々と泳ぐ小さな2匹の赤い魚と並ぶ白い光に、うっすらと目を細めて言った。
「月も、独りだと寂しいかと」
金魚は今も、水槽の中にいる。
title:星が水没さまの五題より
2010-4-17(2010-11-27一部修正)
「なんだこれは」
「金魚です」
「そういうことを聞いてるんじゃない」
朝日の差す窓辺で泳ぐ赤い魚を前にして言うと、恋人はやれやれといった風に肩をすくめる。
「夜の、しかも晴れた日にしか飼えないもの飼うより金魚の方が現実的じゃないですか。そもそもあんた、忘れてたでしょ、コレ」
「……そんなことはない」
「この金魚入れたの1週間前っスよ」
「………………」
無言で睨み上げると、しれっと顔を逸らされた。
そのとき目に入ったらしい置き時計が示す針の位置に「大佐」と少し焦った声で呼ばれ。
着替えの途中だったロイは慌てて動きを再開させた。
それが今朝のこと。
窓際では、久しぶりに捕獲されてた月が浮いていた。
以前と違って、その水面は時折ゆらゆらと揺れる。一緒に捕獲されている金魚のせいだ。
小さく開いた窓から入る風に開け放したカーテンが、水面と同じようにゆらゆらと揺れた。
ベッドからその様子を見るともなしに見る。
さきほどまで熱を持っているように感じていたシーツも今はひんやりとして身体の熱を冷ましてくれていた。
また、水面が小さく揺れ、月の輪郭がわずかに歪んだ。
今は寝室の窓際の水槽に、素直に捕らえられたふりをしている月は、朝になればあっけなく逃げていく。
残るのはハボックの入れた2匹の魚だけだろう。
それでも、少しの時間でも。捕らえてみたいとどうして思うのだろう。
そもそもどうして月を捕まえたいなどと思ったのか――
とりとめなく、背後にある熱と髪を撫でてくる指の気持ちよさにうとうとしていると、ハボックが思い出したように言った。
「そういえば、あの金魚ね」
「……あ?」
掠れきった声しか出ない喉に知らず顔をしかめると、目の前にミネラルウォーターの瓶が現れた。
いつまでたっても甲斐甲斐しい男だ、と思いながらも受け取り、行儀悪く寝転んだまま喉を湿らせる。
そういう時だけ器用なんだから、と呆れて苦笑しているらしい金髪の恋人の方へ寝返りを打って瓶を返した。
「――ん」
「一応、理由があるんですよ」
「――聞いてやろうじゃないか」
顔を上げると、上半身を起こしていた恋人はシガレットケースから煙草を取り出して銜えたところだった。
銜えるだけで火を点そうとはしない。
そういえば寝室では火をつけたことはないな、と他愛もないことを思い起こすロイの傍ら。
ハボックは悠々と泳ぐ小さな2匹の赤い魚と並ぶ白い光に、うっすらと目を細めて言った。
「月も、独りだと寂しいかと」
金魚は今も、水槽の中にいる。
title:星が水没さまの五題より
2010-4-17(2010-11-27一部修正)
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