鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
少し目を伏せてから、私の負けですよ、と小さく付け足して。
オールドラントで死霊使いと呼ばれ恐れられている男は眼鏡の奥の紅い目を歪めた。
「……で、この状況かい?」
「端的に言ってしまえばそうですねえ」
この場に似つかわしくない暢気なやりとりをしながら、ガイは目を丸くしたままぼんやりと「この状況」を考えた。
宿の部屋には二人だけ。
押し付けられた背中には、洗いざらしのシーツと少し固めのベッドの感触。
すぐ目の前には、つい先ほど自分のことを好きだと言った男。
これはもう、どう考えても、
(押し倒されてる……んだよなあ)
女性恐怖症という非常に特殊かつ厄介な体質のため、まさかこういったことが現実に訪れるとはあまり想像できなかった。
それ以前に、男である自分が男に押し倒される状況など、想像するわけがない。
しかも目の前にいるのは“あの”ジェイドである。
そんなことを想像したが最後、即サンダーブレードやインディグネイションが飛んできそうだ。だってジェイドだし。人の心くらい読めてもおかしくないよな、などと思うほど、ガイは内心で混乱の一途を辿っていたが表面上は落ち着き払ったように見えていたため、血のような紅が譜業のガラス越し、不審そうに細められた。
「ガイ。あなた、本当に分かっていますか?」
「え。……ああ、うん。分かってるつもり……だけど」
「そのわりには落ち着いていますね」
「うーん……ジェイドだから、かな?」
しばし考えてから、ガイが答えた。
驚愕や困惑はあるものの、不思議なことに今の状態への嫌悪感などといった負の感情は己にはないようで。
なんだかんだとこのパーティで旅を続ける中、リアリストで非情な軍人である彼が実は不器用な優しさを持ち合わせている人物だということを分かってきたせいだろうか。
己でも半信半疑ながら首を傾げて至近距離にある顔を見上げると、ジェイドは少しの沈黙の後、それはそれは深い溜め息をついて、ガイ、と再度名を呼んだ。
「ん?」
「あなた、本っ当に分かっていませんね」
「は?何を……んんっ!?」
さらに首を傾げようとしたガイは、次の瞬間唇に押し付けられた感触に目を見開いた。
キスされている、と理解して抵抗しようとした時には既に遅く、身動きできないように押さえ込まれていることに愕然とする。
多少腕に覚えがあったとしても、相手は一回り以上年上の職業軍人だった、ということまで彼が思い至ったかどうか。
呆然としているうちに、力の入っていなかった唇を割ってするりと相手の舌が入り込んできてガイの混乱をますます煽り、背中のシーツの質感が今更やけにリアルに感じてわけも分からぬまま焦る。
男はしばらくの間口内を思う様蹂躙し、ようやく離れたかと思うと、我に返って真っ赤になっている青年の濡れた唇を親指で辿り、薄く笑った。
「な なななななにをっ……!!」
「分かってなかったようなので、分からせて差し上げようかと」
「ジェ……」
しれっという彼の名を呼ぼうと動いた唇は、再び覆いかぶさってきた男に耳を柔く食まれることで止められ。
びくりと震えた身体に注ぎ込まれる声は、ガイの中で酷く甘く響いた。
「私があなたにしたいのはこういうことですよ」
「――な んで、」
「先ほど言ったでしょう?返事を聞かせていただきたいのですが」
「ちょっ……ちょっと待――んぅ」
唇は最後まで言葉を紡ぐことなく塞がれ、三度声を奪われる。
慣れぬどころか初めての行為に戸惑うことしかできず、ただただ翻弄されていく。
突然何故、どうして自分を。聞きたいことは山ほどあるのに思考が拡散して、息さえまともにできない。
それでも首を振って逃れ、ぷは、と息をついたガイに、ジェイドはその怜悧な容貌にいつもの食えない笑みを浮かべとんでもないことを言い放った。
「ああ、沈黙は肯定と受け取りますので」
「……っは、あんたに都合がよすぎないかそれ!」
「ええ。ですから……」
青年の上で不穏な動きをしていた手がぴたりと止まる。
いつの間にか眼鏡を取り去っていた瞳が、ガイが初めて見る色で切なげに歪んで――息を呑む。
「……嫌ならば、もっとちゃんと抵抗なさい」
どこか自嘲した笑みを浮かべて。
こつんと額を合わせてくる男の目は伏せられ、視線を合わせることが出来ない。
ジェイドの茶色の髪がさらりと落ちきて頬に触れた。
こんなにも、心臓の音さえ聞こえそうなほどに近いのに。
さきほどとは違う動揺が自身を襲い、金色の髪をした青年はうろたえる。
あの紅が、見えないのは。こいつのこんな表情は――。
「――なあ、旦那……ジェイド」
時が止まったかのような空気をふ、と息をつくことで破ったのは、ガイだった。
互いの吐息のかかりそうな距離で、囁く。
「あんたは、俺に嫌われたいのか?」
「……不思議なことを言いますね。何故です?」
「え?……な、なんとなく…?」
伏せられていた目が静かに上げられて視線が合う、それだけのことに跳ねる心臓には気づかぬ振りをして。
尋ね返されて自信なく答えながらも、自分がふと感じて言ったことは意外と当たっているのではという確信がじわじわと深まっている。
彼の彼自身に対する評価と性格を考えると、こんなある意味滅茶苦茶な行動もおかしくない気がするのだ。……たとえ、本人が否定しようとも。
好きだ、という言葉を疑っているのではない。
むしろ、それが真実だと感じたからこそ。
そして、本当にガイの予測が当たっているのならば――
「失敗、だな」
強張っていた体の力を意識して抜くと、首筋のチョーカーに小さく口付けていたジェイドの紅い目が意外そうにこちらを見た。
「おや、降参ですか?」
「……誰が」
自分から両腕を伸ばしたことで、初めて動揺の色を浮かべた目の前の相手を想う。
これが降参だというならば、戦略のうちだ。
心のうちで呟いて、ガイは目の前の肩へと噛み付いた。
いっそ嫌われてしまおう、なんて選択肢が考えられないくらい。
――溺れさせてやる。
title:群青三メートル手前
JG初書き
萌えの赴くままに書きました 男前な受がすきです
すいませんちょう楽しかったですっ……!(脱兎)
オールドラントで死霊使いと呼ばれ恐れられている男は眼鏡の奥の紅い目を歪めた。
「……で、この状況かい?」
「端的に言ってしまえばそうですねえ」
この場に似つかわしくない暢気なやりとりをしながら、ガイは目を丸くしたままぼんやりと「この状況」を考えた。
宿の部屋には二人だけ。
押し付けられた背中には、洗いざらしのシーツと少し固めのベッドの感触。
すぐ目の前には、つい先ほど自分のことを好きだと言った男。
これはもう、どう考えても、
(押し倒されてる……んだよなあ)
女性恐怖症という非常に特殊かつ厄介な体質のため、まさかこういったことが現実に訪れるとはあまり想像できなかった。
それ以前に、男である自分が男に押し倒される状況など、想像するわけがない。
しかも目の前にいるのは“あの”ジェイドである。
そんなことを想像したが最後、即サンダーブレードやインディグネイションが飛んできそうだ。だってジェイドだし。人の心くらい読めてもおかしくないよな、などと思うほど、ガイは内心で混乱の一途を辿っていたが表面上は落ち着き払ったように見えていたため、血のような紅が譜業のガラス越し、不審そうに細められた。
「ガイ。あなた、本当に分かっていますか?」
「え。……ああ、うん。分かってるつもり……だけど」
「そのわりには落ち着いていますね」
「うーん……ジェイドだから、かな?」
しばし考えてから、ガイが答えた。
驚愕や困惑はあるものの、不思議なことに今の状態への嫌悪感などといった負の感情は己にはないようで。
なんだかんだとこのパーティで旅を続ける中、リアリストで非情な軍人である彼が実は不器用な優しさを持ち合わせている人物だということを分かってきたせいだろうか。
己でも半信半疑ながら首を傾げて至近距離にある顔を見上げると、ジェイドは少しの沈黙の後、それはそれは深い溜め息をついて、ガイ、と再度名を呼んだ。
「ん?」
「あなた、本っ当に分かっていませんね」
「は?何を……んんっ!?」
さらに首を傾げようとしたガイは、次の瞬間唇に押し付けられた感触に目を見開いた。
キスされている、と理解して抵抗しようとした時には既に遅く、身動きできないように押さえ込まれていることに愕然とする。
多少腕に覚えがあったとしても、相手は一回り以上年上の職業軍人だった、ということまで彼が思い至ったかどうか。
呆然としているうちに、力の入っていなかった唇を割ってするりと相手の舌が入り込んできてガイの混乱をますます煽り、背中のシーツの質感が今更やけにリアルに感じてわけも分からぬまま焦る。
男はしばらくの間口内を思う様蹂躙し、ようやく離れたかと思うと、我に返って真っ赤になっている青年の濡れた唇を親指で辿り、薄く笑った。
「な なななななにをっ……!!」
「分かってなかったようなので、分からせて差し上げようかと」
「ジェ……」
しれっという彼の名を呼ぼうと動いた唇は、再び覆いかぶさってきた男に耳を柔く食まれることで止められ。
びくりと震えた身体に注ぎ込まれる声は、ガイの中で酷く甘く響いた。
「私があなたにしたいのはこういうことですよ」
「――な んで、」
「先ほど言ったでしょう?返事を聞かせていただきたいのですが」
「ちょっ……ちょっと待――んぅ」
唇は最後まで言葉を紡ぐことなく塞がれ、三度声を奪われる。
慣れぬどころか初めての行為に戸惑うことしかできず、ただただ翻弄されていく。
突然何故、どうして自分を。聞きたいことは山ほどあるのに思考が拡散して、息さえまともにできない。
それでも首を振って逃れ、ぷは、と息をついたガイに、ジェイドはその怜悧な容貌にいつもの食えない笑みを浮かべとんでもないことを言い放った。
「ああ、沈黙は肯定と受け取りますので」
「……っは、あんたに都合がよすぎないかそれ!」
「ええ。ですから……」
青年の上で不穏な動きをしていた手がぴたりと止まる。
いつの間にか眼鏡を取り去っていた瞳が、ガイが初めて見る色で切なげに歪んで――息を呑む。
「……嫌ならば、もっとちゃんと抵抗なさい」
どこか自嘲した笑みを浮かべて。
こつんと額を合わせてくる男の目は伏せられ、視線を合わせることが出来ない。
ジェイドの茶色の髪がさらりと落ちきて頬に触れた。
こんなにも、心臓の音さえ聞こえそうなほどに近いのに。
さきほどとは違う動揺が自身を襲い、金色の髪をした青年はうろたえる。
あの紅が、見えないのは。こいつのこんな表情は――。
「――なあ、旦那……ジェイド」
時が止まったかのような空気をふ、と息をつくことで破ったのは、ガイだった。
互いの吐息のかかりそうな距離で、囁く。
「あんたは、俺に嫌われたいのか?」
「……不思議なことを言いますね。何故です?」
「え?……な、なんとなく…?」
伏せられていた目が静かに上げられて視線が合う、それだけのことに跳ねる心臓には気づかぬ振りをして。
尋ね返されて自信なく答えながらも、自分がふと感じて言ったことは意外と当たっているのではという確信がじわじわと深まっている。
彼の彼自身に対する評価と性格を考えると、こんなある意味滅茶苦茶な行動もおかしくない気がするのだ。……たとえ、本人が否定しようとも。
好きだ、という言葉を疑っているのではない。
むしろ、それが真実だと感じたからこそ。
そして、本当にガイの予測が当たっているのならば――
「失敗、だな」
強張っていた体の力を意識して抜くと、首筋のチョーカーに小さく口付けていたジェイドの紅い目が意外そうにこちらを見た。
「おや、降参ですか?」
「……誰が」
自分から両腕を伸ばしたことで、初めて動揺の色を浮かべた目の前の相手を想う。
これが降参だというならば、戦略のうちだ。
心のうちで呟いて、ガイは目の前の肩へと噛み付いた。
いっそ嫌われてしまおう、なんて選択肢が考えられないくらい。
――溺れさせてやる。
title:群青三メートル手前
JG初書き
萌えの赴くままに書きました 男前な受がすきです
すいませんちょう楽しかったですっ……!(脱兎)
PR
ブログ内検索
アクセス解析