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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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「こんなところで、どうしたんですか?」


それは、こんな場所――戦場には、とても不似合いな言葉だった。





― すくいあげられた君と僕 ―





傷ついた足に黙々と包帯を巻く男を眺める。
手当てのために跪いた男を、自然見下ろす形となって目に入った肩の階級章は少尉のものだ。
人間ならばこんなところに一人でいるには不釣合いな階級だが、マシノイドならば不自然でもなんでもない。機械相手の階級などあってないようなものだということは、自分が一番よく知っている。
太陽の強い光に反射する、やや日に焼けた金髪が綺麗だとぼんやり思いながら口を開いた。

「なぜ助ける?」
「もう決着はついたようなもんです。これ以上殺す必要も殺される必要もないでしょう」

俺もいい加減人殺すのは疲れたんで、と語る男は、マシノイドだろうに戦場の人間と同じ目をしていた。

この戦争のために自国で作られたマシノイドは、わざと感情を持たず、痛覚を持たないように作られていた。戦うためだけに作られた機械たち。
相手方の――生きている――マシノイドをこんな近くで見たことはなかった――ましてや会話などするはずもない――が、彼の国ではそうではなかったのだろうか。
だとすればなんと残酷な――と、そこまで考えて自嘲した。

感情があろうがなかろうが、機械だろうが人間だろうが。
戦場において敵を殺すために存在しているということに、変わりはない。
どちらの方が残酷、などと言えるはずもない――白い手袋をした右手をぎゅっと握り締めた少佐に気づくことなく、敵国の兵士は先を続ける。

「それに、」
「それに?」
「……笑いません?」
「いいから言え」

促すと、それでも彼は少しの間渋っていたが、少佐の無言の圧力に負けて言った。

「俺は少佐殿には会ったばっかですけどね」

「あんたは、こんなところ死んでいい人じゃない気がして」

見上げる青い瞳は、曇りひとつなく自分を見ている。
少尉の彼は、自分を人間だと勘違いしているのだろう。
だから、こんなにも優しいのだ。
漆黒の髪と瞳を持った少佐――ロイは頬の傷へそっと触れてくる手に、自然と目を閉じた。




***




「はい、終わりましたよ」

最後に残った腕の傷の手当てを終えると、長身の少尉は上着を脱いで背を向けた。
その意味が分からず、目を瞬かせる。

「……なんだ?」
「近くまで送っていきます。乗ってください」
「そこまでされずとも自分で動ける」
「本当に?」

肩越しに心底疑わしそうな視線を向けられてムカっとし、その怒りに任せて勢いよく立ち上がった瞬間、足首に痛みが走った。思わずよろけたところをこちらに向き直った少尉に支えられる。
こんな時は人そっくりに作られた自分が少し恨めしい――、などと思っていると上の方から呆れた口調が降ってきた。

「ほら、いわんこっちゃない」
「っ、放せ!」
「あんたはこんなとこで死んでいい人じゃない、って言いませんでしたっけ、俺」
「それはおまえの勝手だ、私には関係ない!」

自分が死んで――壊れて。本当に悲しむ人なんて思い浮かばない。困るであろうヤツらはたくさんいるけれど。
「私」は必要とされていない――今さらそんなことを感じて誰かに八つ当たりするほど若くないと思っていたのに、今は何故かとめることができず叫ぶように言い放つと、金髪の少尉の眉がぴくりと動いた。先ほどまでどこか柔らかさを持っていた男の纏う空気が冷ややかなものになり、雰囲気が変わったことに気づいて、少佐は息を呑む。
こちらを覗き込んでくる瞳が、空色から冷たいアイスブルーに変じていた。

「じゃあ勝手ついでに言わせていただきますがね、アメストリスの少佐殿?確かにあんたがどこで死のうがあんたの勝手で俺には関係ありません。ですけどね、せっかく助けた人をこのまま放置して死なれちゃ俺も後味悪いんで」
「…………これくらいで死なない」
「――今にも死にそうな顔してるくせに」
「な……!」

低く言い放たれた一言に言い返そうと顔を上げたところで、バサリと上着が降ってきて、身を硬くした。その一瞬の隙をつかれる。

「っなにを……!」
「俺の勝手です」

ひょいと乱暴に抱えあげられて咄嗟に言葉を失う。

「っ!!ふざけるな、降ろせ!」
「暴れるのは構いませんが、落ちたら傷に響きますよ」
「だからおまえには関係――」
「うるさい」
「しょう、」
「まだフザけたこと抜かす元気があるんなら俺にも考えがありますが、サー」
「…………」

冷たい瞳で一瞥され、思わず口を噤む。その考えとやらも怖くて聞く気になれない。
両腕で抱き上げられたままの体勢で俯くと、ぽつりと声が落ちてきた。

「――もう、誰が死ぬのもごめんです」


――ああ。そうか。


聞かせるつもりではなかっただろう本音を耳にして、何かがすとん、と腑に落ちた。
一度強く目を閉じて開いてから、しょうい、と呼ぶ。声が少し掠れたが、彼には届いているはずだ。


「分かった。分かったから――せめてこの体勢はやめてくれ」


自分が落ち着いたのが分かったのか、せめてもの訴えが受け入れられて、溜め息と共に一旦降ろされた。
黙ったまま向けられた背中に、小さく息をついてから、今度は素直に彼の首に腕を回す。



乾いた砂と、煙草と硝煙の匂いがした。







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管理人 柚 (雑記)

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