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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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金の髪をした人間は、部屋の窓を小さく開けた。
雨はやんだようで、冷たい夜の気配だけがそっと忍び込んでくる。ふわりと香るのは濡れた土や草花のものか。
そいつは開けた窓から空を眺めて少し目を細めたようだった。
その様子をじっと見ていた私に気づくと、小さく微笑んで私の名を呼ぶ。

「好きなだけ此処にいて、好きなときに出入りしてくださいね」

言われなくてもそのつもりだったが、石を投げるでも、叩き出すでもなく、あるいは捕まえて閉じ込めようともしない人間は、初めてだった。



***



「オマエ、もしかして血統書付か……?」

濡れたから丁度いい、と訳の分からない理屈をこねて私を苦い泡まみれにし、熱い水を浴びせてきた男は、暴れて疲れきった私を最後の仕上げと言わんばかりにぐいぐいと布で拭き終えたあと、どこか呆然として言ったが、私はそれどころではなかった。まだ中途半端に濡れている毛が気持ち悪いのだ。
身体を震わせて水気を飛ばしてから、あたりを見回す。温度の高い方向へ引き寄せられるように動いて納まった先は、気づいたら男の膝の上だった。それでも暖かい場所を見つけて少し満足する。

「血統書付」の猫には何度か会ったことがあるが、あまり好きではない。
どこそこの猫とどこそこの猫の子というだけで偉そうにしているヤツらばかりだったのだ。
血筋が生きるために何の役に立つというのか。
あいつらは自分で餌も捕れないうえに、威張り散らすしか能がないのだ。
私はひとりで生きていける。
青い目の男はいつの間にかつけた煙草を片手にちがうのかなーと暢気につぶやいている。

「あんまり綺麗だからどっかの飼い猫泥棒しちまったのかと……毛並みもそうだけどしっぽとか、すげー綺麗だし」

伸びてきた手からしっぽをするりと逃すと、それ以上は追われずに身体を撫でられた。
撫で方は多少乱暴だが、暖かいのでそのままにさせておく。

「飼い猫じゃないなら、名前がほしいよな」

名前?
私に名前は不要だぞ?
ひとりで生きているのだから、呼ばれる必要など一切ない。
だが、当然こちらの思っていることなど伝わらず、男はうーんと唸っている。

「真っ黒で綺麗だから…………ロイ、とか……いやいやそれは人としてどうなんだ俺つーかそれ以前に殺されるぞ考え直せ」

……ふむ、ロイか。
名を呼ばれるのは好きではないが、こいつにそう呼ばれるのは悪くない、かもしれない。
みゃあ、と鳴くと、そいつは何故かぎょっとして顔を上げた。

「えっ!?待て、今のはナシ!な?ええと――ほら、ジャクリーンとかどうだ!?美人そうな名前だろ!?」

バカを言うな。それはメスの名前だろう。
それくらい私だって知っている。
つんとそっぽを向いてやるとさっきまでの暢気さは嘘のようにはますます焦っている。

「じゃあエリザベスは!?ダメか!?えーと、あとは、ケイト、ヴァネッサ、ブレコ――」

……どうでもいいがなぜメスの名前ばかりなのだ。最後のはよく分からんが。
その後もしばらくいくつか名前らしきものを喚いていたが、私がしっぽを立ててそっぽを向いたままでいると、諦めたのか小さく呼ぶ声が聞こえた。

「ロイ……?」

なんだ?
にゃ、と振り返ると男は「マジか……」と項垂れた。
何故か意気消沈している。

「あーじゃあ……ロイ。俺はジャン……っス」

む、なにやら突然丁寧になったぞ。
鈍そうな人間だったが、ようやく私の素晴らしさに気づいたか。
ふふん、私のしっぽもなかなかのものだな。
褒美の代わりにぱたり、とジャンが綺麗だと言ったしっぽを振ってやると。

「うわ。ますますそっくりに見えてきた……」

天に向けた顔を覆って何やら呻いていた。



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管理人 柚 (雑記)

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