鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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「おまえって、ガード固えもんなー」
「私が?」
「他に誰がいるんだよ」
バーのカウンターに腰かけてにやにやと笑う親友は、多少酔いが回ってきているのかもしれない。いつにも増して陽気だ。
「なかなか本心見せねえし、踏み込ませねえだろ」
「こんな立場で早々本心を見せるほうが不味いだろうが」
「仕事じゃなくて、プライベートの話だよ」
分かってねえなーと言わんばかりの態度にロイはいささか鼻白んだが、グラスに残った酒で喉を湿らせ、とりあえず最後まで聞いてやると先を促す。
「コイツにはここまでってラインを作ったら、絶対越えさせないし、自分で越えようともしない」
「……否定はしないが、おまえ、人のことが言えるのか?」
「俺には愛する家族がいるからいいんだよ。それに俺と違っておまえの境界線はハンパなく厳しいぜ」
おまえの場合、一旦懐に入れちまったヤツには本当に弱くなるから、それくらいで丁度いいけどな。
笑いながらぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられるのを振り払った。
「子ども扱いするな。結局何が言いたいんだ、ヒューズ」
「いっつも壁作ってたんじゃ気疲れしちまう。美人とデートを楽しむのも悪かないが、そんな壁なしに一緒にいられる相手がいた方が気楽に過ごせるってことだ、ロイ」
だから早くそんな嫁さんもらえといつもの台詞で締めた親友に、放っておけと返したのは、先日のことだったろうか。
そんな記憶をゆるゆると辿りながら、ロイの意識は覚醒と眠りの間を漂っていた。収束しては拡散していく思考。
ふわふわとした感覚に浮き上がりかけていた意識を再び沈めようとした時、すぐ隣に人の気配を感じた。
一瞬にして背筋に緊張が走るも、見知った気配に加えて馴染んだ煙草の匂いが鼻腔をくすぐる。警戒の必要がないと無意識下で判断した身体はふたたび弛緩した。
その僅かな反応を見逃さなかったのか、ささやくような声をかけてきたのは予想通りの人物。
「大佐?起きましたか?」
「……ん。ハボック?」
「はい」
ゆっくりと目を開くと、隣に座りこんでこちらを見下ろす金髪の少尉と視線が合った。
青い瞳にいつもの飄々とした態度は変わらないが、口元にくわえたトレードマークの煙草に火はついていない。
だったらさっきのあれは残り香だろうかとぼんやりと思ったところで、呆れた声が降ってきた。
「あんたねぇ、サボるのは今さらですけど、そうやってどこでも寝る癖、なんとかならないんですか」
「……失敬な。司令部の外で寝たことなどない」
寝起きの思考はまとまらず、わずかに反論が遅れる。
「それは当たり前っス。問題は司令部内です」
「別に中なら問題ないだろう?」
「こんな木の下で寝られたんじゃたまりませんよ。あんた大佐なんですから、もっと危機意識持ってください」
「仮に危険があっても、人がいればすぐに気づく」
「普段のあんたなら確かにそうですけど、疲れてる時は違うでしょ。今も俺に気づかなかったじゃないですか」
何気なく言われたその言葉が耳から脳へとたどり着き、意味を理解した途端、驚きで思考がクリアになった。
「……待ってくれ少尉。ずっといたのか?此処に?」
「15分くらい前ですかね、見つけたの」
それからずっといますよ。
一応断りを入れてから、手馴れた様子でくわえていた煙草に火をつける姿を半ば呆然と見上げる。
――気づかなかった?私が?この男の気配に?
眠っていた姿勢のまま自分を見上げている上官に何を思ったか、ハボックは大きな手のひらでその視界を覆って、もうちょっと寝てください、と言った。
唐突に暗くなった視界よりも、てのひらから伝わる温度の気持ちよさが勝ってついそのまま目を閉じる。
「……連れ戻しに来たのではないのか?」
「だったらとっとと起こして引っ張っていきますよ」
ひどい言い草だが、いつもそれが実行されていることも知っているので(なにしろ当事者だ)、ロイも何も言わない。
「最近忙しくて無理してたでしょう。中尉が2時間くれました」
だからまだ寝ててください、と言われたが、部下の言うことに素直に従うのも面白くなくてわざと立場を分からせるような――こんな姿勢で威厳も何もあったものではないが――言葉を使う。
「……ではなぜ貴官まで一緒にいる必要があるのかね、ハボック少尉」
「俺があんたの護衛官で、さらに言うなら本日の業務は終了しているからであります、サー」
「ほう、それはおかしいな。おまえの仕事はそんなに少なかったか」
「こないだまでの無茶苦茶な肉体労働の褒美だっつって俺に半休取らせてくれたのはあんたですよ。ここに残ってるのは俺の勝手です」
「…………」
すっかり忘れていたロイが思わず沈黙すると、珍しく勝利した上官との会話にハボックがくすりと笑うのを感じる。
「嫌なら仮眠室使ってください。ここよりあっちの方が安全です」
「……あそこは苦手だ。むさ苦しいしうるさい」
第一、あそこでは眠れない。というのは心の中でつけたす。
「……まぁ、今の時期なら外の方が気持ちがいいってのは分かりますけど……つうかこの枕はどっから持ってきたんすか」
「……秘密だ」
さすがに地面に頭を置く気になれなくて持ってきた枕を見咎められて罰が悪そうに言うと、小さなため息が耳に届く。
表情は見えないが、きっとまたこの上司は、と呆れているのだろう。
「……貴重な休憩時間ですし、休んでください。俺が邪魔ならもう少し遠くにいますんで」
「……そこでかまわん」
目を閉じたままだからか、他の感覚が鋭敏になっていて、また彼に染み付いている煙の香りが届く。
唐突に、自分はこの香りに落ち着くのだ、と理解した。
「おまえの煙草、」
「あ、すんません」
慌てて火を消そうとする気配を感じ、ロイは忠実な部下を止める。
「違う」
「え?」
「消さなくていい。吸っていろ」
「え、え、大佐?」
どうしようと戸惑う声を尻目に、目を閉じたままヒューズとの会話を思い出した。
境界線。自分と相手とのボーダーライン。
ロイはどれだけ深い眠りに入っていても、傍に人がいて気づかなかったことなどない。
だが、この男はさも当然のように傍にいたという。
言われてみれば、彼にサボりを見つけられて起こされるということも何度かあったような気がする。
――つまり、起こされるまで起きなかったのだ、自分は。
そして今も、傍にこの男がいるというのに意識はするすると闇へと沈んでいく。
ややしてから戸惑って呼びかける声もなくなり、代わりというように目蓋に置かれていたてのひらが頬をくすぐった後、髪を梳きはじめる。
不快に思うどころか心地よく感じるその感触が、ロイをさらに深い眠りの淵へと誘い込む。
「――大佐?もう寝たんですか?」
ああ、いつの間にか。
気づかぬうちに越えられていたのか。
それとも越えていたのだろうか?
とりあえず自分にこんな砂糖まぶした話が(以下略
大佐は知らないうちにハボにだけ境界が緩くなってるといい。
ヒューズさんは嫁もらえとは言ったが嫁にいけとは言ってない!とか言うんだけど、そしたらハボが嫁にくるんだよ。(家事分担的な意味で)
どうやら私はくっついてない両思い(あるいは片思い)っぽいシチュが好きみたいです。
タイトルはbe in love with flowerさまの選択式お題より。
「私が?」
「他に誰がいるんだよ」
バーのカウンターに腰かけてにやにやと笑う親友は、多少酔いが回ってきているのかもしれない。いつにも増して陽気だ。
「なかなか本心見せねえし、踏み込ませねえだろ」
「こんな立場で早々本心を見せるほうが不味いだろうが」
「仕事じゃなくて、プライベートの話だよ」
分かってねえなーと言わんばかりの態度にロイはいささか鼻白んだが、グラスに残った酒で喉を湿らせ、とりあえず最後まで聞いてやると先を促す。
「コイツにはここまでってラインを作ったら、絶対越えさせないし、自分で越えようともしない」
「……否定はしないが、おまえ、人のことが言えるのか?」
「俺には愛する家族がいるからいいんだよ。それに俺と違っておまえの境界線はハンパなく厳しいぜ」
おまえの場合、一旦懐に入れちまったヤツには本当に弱くなるから、それくらいで丁度いいけどな。
笑いながらぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられるのを振り払った。
「子ども扱いするな。結局何が言いたいんだ、ヒューズ」
「いっつも壁作ってたんじゃ気疲れしちまう。美人とデートを楽しむのも悪かないが、そんな壁なしに一緒にいられる相手がいた方が気楽に過ごせるってことだ、ロイ」
だから早くそんな嫁さんもらえといつもの台詞で締めた親友に、放っておけと返したのは、先日のことだったろうか。
そんな記憶をゆるゆると辿りながら、ロイの意識は覚醒と眠りの間を漂っていた。収束しては拡散していく思考。
ふわふわとした感覚に浮き上がりかけていた意識を再び沈めようとした時、すぐ隣に人の気配を感じた。
一瞬にして背筋に緊張が走るも、見知った気配に加えて馴染んだ煙草の匂いが鼻腔をくすぐる。警戒の必要がないと無意識下で判断した身体はふたたび弛緩した。
その僅かな反応を見逃さなかったのか、ささやくような声をかけてきたのは予想通りの人物。
「大佐?起きましたか?」
「……ん。ハボック?」
「はい」
ゆっくりと目を開くと、隣に座りこんでこちらを見下ろす金髪の少尉と視線が合った。
青い瞳にいつもの飄々とした態度は変わらないが、口元にくわえたトレードマークの煙草に火はついていない。
だったらさっきのあれは残り香だろうかとぼんやりと思ったところで、呆れた声が降ってきた。
「あんたねぇ、サボるのは今さらですけど、そうやってどこでも寝る癖、なんとかならないんですか」
「……失敬な。司令部の外で寝たことなどない」
寝起きの思考はまとまらず、わずかに反論が遅れる。
「それは当たり前っス。問題は司令部内です」
「別に中なら問題ないだろう?」
「こんな木の下で寝られたんじゃたまりませんよ。あんた大佐なんですから、もっと危機意識持ってください」
「仮に危険があっても、人がいればすぐに気づく」
「普段のあんたなら確かにそうですけど、疲れてる時は違うでしょ。今も俺に気づかなかったじゃないですか」
何気なく言われたその言葉が耳から脳へとたどり着き、意味を理解した途端、驚きで思考がクリアになった。
「……待ってくれ少尉。ずっといたのか?此処に?」
「15分くらい前ですかね、見つけたの」
それからずっといますよ。
一応断りを入れてから、手馴れた様子でくわえていた煙草に火をつける姿を半ば呆然と見上げる。
――気づかなかった?私が?この男の気配に?
眠っていた姿勢のまま自分を見上げている上官に何を思ったか、ハボックは大きな手のひらでその視界を覆って、もうちょっと寝てください、と言った。
唐突に暗くなった視界よりも、てのひらから伝わる温度の気持ちよさが勝ってついそのまま目を閉じる。
「……連れ戻しに来たのではないのか?」
「だったらとっとと起こして引っ張っていきますよ」
ひどい言い草だが、いつもそれが実行されていることも知っているので(なにしろ当事者だ)、ロイも何も言わない。
「最近忙しくて無理してたでしょう。中尉が2時間くれました」
だからまだ寝ててください、と言われたが、部下の言うことに素直に従うのも面白くなくてわざと立場を分からせるような――こんな姿勢で威厳も何もあったものではないが――言葉を使う。
「……ではなぜ貴官まで一緒にいる必要があるのかね、ハボック少尉」
「俺があんたの護衛官で、さらに言うなら本日の業務は終了しているからであります、サー」
「ほう、それはおかしいな。おまえの仕事はそんなに少なかったか」
「こないだまでの無茶苦茶な肉体労働の褒美だっつって俺に半休取らせてくれたのはあんたですよ。ここに残ってるのは俺の勝手です」
「…………」
すっかり忘れていたロイが思わず沈黙すると、珍しく勝利した上官との会話にハボックがくすりと笑うのを感じる。
「嫌なら仮眠室使ってください。ここよりあっちの方が安全です」
「……あそこは苦手だ。むさ苦しいしうるさい」
第一、あそこでは眠れない。というのは心の中でつけたす。
「……まぁ、今の時期なら外の方が気持ちがいいってのは分かりますけど……つうかこの枕はどっから持ってきたんすか」
「……秘密だ」
さすがに地面に頭を置く気になれなくて持ってきた枕を見咎められて罰が悪そうに言うと、小さなため息が耳に届く。
表情は見えないが、きっとまたこの上司は、と呆れているのだろう。
「……貴重な休憩時間ですし、休んでください。俺が邪魔ならもう少し遠くにいますんで」
「……そこでかまわん」
目を閉じたままだからか、他の感覚が鋭敏になっていて、また彼に染み付いている煙の香りが届く。
唐突に、自分はこの香りに落ち着くのだ、と理解した。
「おまえの煙草、」
「あ、すんません」
慌てて火を消そうとする気配を感じ、ロイは忠実な部下を止める。
「違う」
「え?」
「消さなくていい。吸っていろ」
「え、え、大佐?」
どうしようと戸惑う声を尻目に、目を閉じたままヒューズとの会話を思い出した。
境界線。自分と相手とのボーダーライン。
ロイはどれだけ深い眠りに入っていても、傍に人がいて気づかなかったことなどない。
だが、この男はさも当然のように傍にいたという。
言われてみれば、彼にサボりを見つけられて起こされるということも何度かあったような気がする。
――つまり、起こされるまで起きなかったのだ、自分は。
そして今も、傍にこの男がいるというのに意識はするすると闇へと沈んでいく。
ややしてから戸惑って呼びかける声もなくなり、代わりというように目蓋に置かれていたてのひらが頬をくすぐった後、髪を梳きはじめる。
不快に思うどころか心地よく感じるその感触が、ロイをさらに深い眠りの淵へと誘い込む。
「――大佐?もう寝たんですか?」
ああ、いつの間にか。
気づかぬうちに越えられていたのか。
それとも越えていたのだろうか?
とりあえず自分にこんな砂糖まぶした話が(以下略
大佐は知らないうちにハボにだけ境界が緩くなってるといい。
ヒューズさんは嫁もらえとは言ったが嫁にいけとは言ってない!とか言うんだけど、そしたらハボが嫁にくるんだよ。(家事分担的な意味で)
どうやら私はくっついてない両思い(あるいは片思い)っぽいシチュが好きみたいです。
タイトルはbe in love with flowerさまの選択式お題より。
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