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鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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side.R

目の前に、カプチーノと、マドレーヌと、嬉しそうに笑う男。
なんとなく見慣れてしまったこの光景は、カプチーノがカフェオレや紅茶になったり、あるいはマドレーヌがクッキーやケーキに変わったりするが、目の前でへらへらと笑う男だけは変わらない。
何がそんなに楽しいのか笑みを崩さない男にちらりと視線をやると。
しっかり視線があってしまって、どうしていいか分からなくなる。

「なんスか?」
「……そんなにじろじろ見られると食べにくい」

いつかのカフェで見た光景は、今では私の家で毎日のように繰り返されている。

「いいじゃないスか、減るもんじゃないし」
「おまえに見られていると減るような気がするのは何故だろうな」
「じゃあ他のヤツらには見せんでくださいね、俺の分が減るから」
「私を見たがる物好きなんておまえくらいだ」
「だったら尚更、俺くらいあんたのこと見ててもいいですよね」
「……おまえ、ずいぶん口が達者になってないか?」
「毎日お手本見せてもらってますから」
「ほう、誰にだ?」
「さあ、誰だと思います?」

ああ言えばこう言う。
他愛ない言葉遊びに耐え切れずに噴出すと、目の前の恋人も破顔した。
あの時は確かまだ上司と部下という関係だけで、まさかこんな関係に落ち着くとはどちらも予想すらしていなかっただろう。

「いや、俺はあのときから大佐が好きでしたけど」
「嘘を言え」
「いや、うーん…好き、まではいかなかったとしても、気になる人、でしたから。っていうかあれ今思ったらデートですよね、うわ俺もったいねえ……!」
「…………」

なにやら一人で苦悩し始める男を無視して、目の前の洋菓子に手を伸ばす。
するとまた視線がついてきて、顔を顰めて手を止める。

「大佐?マドレーヌ冷めますよ?」
「……だったらその鬱陶しい視線をどうにかしろ」
「へーい」

あんたが俺の作ったモン食べてるの見てるのが好きなのになあ、と少々つまらなさそうにしながらも、私の正面から隣へと移動して視線をずらしたハボックに少し驚く。

「やけに素直だな」
「そりゃーまあ、やっぱ嬉しいですし」
「?」

なぜか照れたように頭をかいて目を逸らす姿に首を傾げながら。
普通のものより少しぬるめに、少し甘めに。
私のためだけに淹れられたカプチーノに口をつける。

「だって、俺を意識してくれてるっていうことでしょ?」
「……ゲホッ!!」
「え、ちょ、大佐ッ!?」

盛大にむせた。
げほげほと咳き込んで空気を確保しようとする私に、隣の男――いや、もうこいつは駄犬で十分だ――は、私の背中をさすりながら的外れなことを言う。

「すいません、熱かったですか!?」
「――っそうじゃない!おまえ、何を言い出すんだ!!」
「え?……えー、だってそうじゃないっスか」

垂れた目のせいでやる気なく見える顔に、へら、といやに幸せそうな笑みを浮かべてみせた。

「それよりむせたせいで涙目っスよ。ちょっと頬も赤いし」
「大丈夫だから、離せ」

覗き込まれて顔を背ける。
赤いのはむせたせいだけじゃないということくらい、気づけ馬鹿者。だからおまえは駄犬なんだ。

「ならいいですけど」

言いながら、さりげなく目じりにキスを落として離れていく。
こんなやりとりも、なんということはない日常で。

カプチーノを一口飲んで落ち着いてから、手作りといわんばかりの歪な形をした、でも味は間違いなく自分好みの黄金色のマドレーヌをようやく手に取ると、自分でも意図せぬ笑みが零れた。


「悪くない、な」


いつか思ったことを呟くと、軽く引き寄せられて、頬にも軽いキス。
大型犬に懐かれているような錯覚を覚える行動をする男は、くすくすと耳元で悪戯っぽく囁いた。


「こんな休日も悪くない、ですか?」
「……こんな毎日も悪くない、だよ――ジャン」


少しだけ――そう、ほんの少しだけだ――その低い声に聞き惚れてしまった腹いせに、めったに呼ばない名前を口にすると。
恋人はさっきの態度が嘘のように、盛大に照れた様子を見せてくれたので。
私はおおいに満足した。



おまえと私の変わらぬこの日々に、感謝を。



<<Side:H (数ヶ月前)



title:群青三メートル手前

目指せいちゃいちゃばかっぷる!
大佐がとにかくしあわせなのが書きたかった
カッコいい増田さんカッコいい増田さんと言い聞かせて書いたら微妙にリバくさくなった気もしますがハボロイと言い張りたい所存です
まあぶっちゃけどっちでも、二人がしあわせなら私はそれだけでしあわせになれます

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管理人 柚 (雑記)

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