鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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東方司令部の司令室。
珍しくもごくごく平和に一日が過ぎようかという時、それは訪れた。
「待たせたなーロイ!」
「誰も待ってない」
大きな音を立てて開いた扉に一瞬、部屋の視線が集中したが、現れた人物を認めるとすぐに各々の業務に戻っていく。
日常茶飯事までとは言わないが、それに近い頻度で訪れる人にいちいち構ってなどいられない。
名を呼ばれたロイ――マスタング大佐もにべもなく切り捨てたが、
「まったまたーそんなこと言っちゃって、さっさと仕事終わらせて俺が来るの待っててくれたんだろー?そうだ待ってたって言えばな、こないだエリシアちゃんが、お散歩行ったときに俺のために摘んできた花をどーしても直接見せたいっつって!遅くなるって言った俺の帰りをずーっと待っててくれてたんだよ!結局俺が帰る前に寝ちゃったんだけど、花をぎゅーっと握り締めててさあ、あれはまさに天使の寝」
「そうか。それはよかったな」
「なんだよ、もっと聞きたいだろ?遠慮すんな」
「してない。さっさと行くぞ」
呆れたように言ったロイだったが、本当に仕事は終えていたらしい。
デスクから立ち上がって傍に来ていた騒がしい友人を促す。
喋りながらもそれに続こうとしたヒューズは途中、自分に注がれる視線に気づいて歩みを止めた。
それは少々剣呑な視線であったが、ヒューズはまるで気づいていないかのようになんの気負いもなくそちらを振り向いて笑う。
「よ、少尉」
「……どうも」
「相変わらず愛想がねえなあ。もうちょっと愛想良くしねえと捨てられるぜ?」
「あいにくあんたに振りまく愛想はもっちゃいないんで」
こちらも仕事は終わっていたらしく、無愛想に煙を吐いて言う少尉――ハボックをヒューズはにやにやと見た。
挑発的な笑みを――少なくともハボックにはそう見えた――浮かべてロイの隣に立っている中央の中佐は、どうにもハボックのこんな態度を面白がっている節がある。
「なんだ?仕事終わったなら少尉も行くか?」
「おい、ヒューズ」
「いいじゃねえのよロイ、たまには部下も連れてってやれよ。どうだ?」
少し困ったように言う親友を歯牙にもかけずに誘うヒューズに、ハボックは苦笑を返した。
「あー……すんません、今日はブレダたちと飲みに行く約束してるんスよ。お二人で楽しんできてください」
「そうか?んじゃまあ行くか、ロイ」
「だから私は最初からさっさと行くぞと言っている」
「えー?」
単なる社交辞令か他の意味を含んでいたのか。意図の読めぬ誘いをかけた人物はハボックの言葉にわずかに眉を上げたがそれだけで、あっさりとした態度で、なにやらぶつぶつと述べているロイの背を押し、部屋から去っていった。
ブレダは無為に煙を量産している金色の頭をはたいた。
「行けよ、ヘタレ」
「……ブレさん」
「変な名前つけるんじゃねえ。誰が飲みに行くって?」
「だって俺、これ以上あの人らが仲良くしてんの見たら立ち直れねえ……」
ブレダは頭を抱えて項垂れる友人になんともいえない視線を注いだ。
「なんだよ」
「最近、おまえのせいでやたら大佐に睨まれるんだけど。つーかさっきも」
「俺のせいにすんな。なにやらかしたんだよ?」
「そうやって本気で思ってんのがおまえのすごいとこだと思うぜ」
「は?」
邪魔をする気はないが特に応援する気にもなれないブレダは、鈍い友人の頭をもう一度はたいて勝手にやってろ、と独りごちた。
ヒューズは妙に据わった目をしてグラスを傾ける黒い頭を呆れて見た。
「そう拗ねるなって」
「誰が拗ねるか」
「さっきみたいに酒でも食事でも誘えばいいじゃねえか。別に普通だろ?」
「……だが断られたぞ」
「それは俺が誘った上におまえが不満そうにしたからだろうが」
「それは…いきなりあんなことを言われたらそうなるだろう……」
「じゃあ今度誘ってみろよ」
「……」
ロイはむう、と口をへの字にして黙りこんでしまう。
「……あのなあ」
「だいたい、なんでおまえの方があいつと喋ってるんだ。あいつの上司は私だ」
ヒューズはバーのカウンターで酔いにまかせて本音らしきものを零している友人を見やり、がしがしと頭をかいて唸った。
「どこの乙女だよまったく……」
自分が邪魔をするまでもなくすれちがっている二人の現状を正確に把握しているヒューズは、本気の相手には強く出られないらしい親友の頭を撫でてどうしたもんかね、と呟いた。
知らぬは二人ばかり也
そこで撫でるからハボが誤解するんです
title:選択式御題
珍しくもごくごく平和に一日が過ぎようかという時、それは訪れた。
「待たせたなーロイ!」
「誰も待ってない」
大きな音を立てて開いた扉に一瞬、部屋の視線が集中したが、現れた人物を認めるとすぐに各々の業務に戻っていく。
日常茶飯事までとは言わないが、それに近い頻度で訪れる人にいちいち構ってなどいられない。
名を呼ばれたロイ――マスタング大佐もにべもなく切り捨てたが、
「まったまたーそんなこと言っちゃって、さっさと仕事終わらせて俺が来るの待っててくれたんだろー?そうだ待ってたって言えばな、こないだエリシアちゃんが、お散歩行ったときに俺のために摘んできた花をどーしても直接見せたいっつって!遅くなるって言った俺の帰りをずーっと待っててくれてたんだよ!結局俺が帰る前に寝ちゃったんだけど、花をぎゅーっと握り締めててさあ、あれはまさに天使の寝」
「そうか。それはよかったな」
「なんだよ、もっと聞きたいだろ?遠慮すんな」
「してない。さっさと行くぞ」
呆れたように言ったロイだったが、本当に仕事は終えていたらしい。
デスクから立ち上がって傍に来ていた騒がしい友人を促す。
喋りながらもそれに続こうとしたヒューズは途中、自分に注がれる視線に気づいて歩みを止めた。
それは少々剣呑な視線であったが、ヒューズはまるで気づいていないかのようになんの気負いもなくそちらを振り向いて笑う。
「よ、少尉」
「……どうも」
「相変わらず愛想がねえなあ。もうちょっと愛想良くしねえと捨てられるぜ?」
「あいにくあんたに振りまく愛想はもっちゃいないんで」
こちらも仕事は終わっていたらしく、無愛想に煙を吐いて言う少尉――ハボックをヒューズはにやにやと見た。
挑発的な笑みを――少なくともハボックにはそう見えた――浮かべてロイの隣に立っている中央の中佐は、どうにもハボックのこんな態度を面白がっている節がある。
「なんだ?仕事終わったなら少尉も行くか?」
「おい、ヒューズ」
「いいじゃねえのよロイ、たまには部下も連れてってやれよ。どうだ?」
少し困ったように言う親友を歯牙にもかけずに誘うヒューズに、ハボックは苦笑を返した。
「あー……すんません、今日はブレダたちと飲みに行く約束してるんスよ。お二人で楽しんできてください」
「そうか?んじゃまあ行くか、ロイ」
「だから私は最初からさっさと行くぞと言っている」
「えー?」
単なる社交辞令か他の意味を含んでいたのか。意図の読めぬ誘いをかけた人物はハボックの言葉にわずかに眉を上げたがそれだけで、あっさりとした態度で、なにやらぶつぶつと述べているロイの背を押し、部屋から去っていった。
ブレダは無為に煙を量産している金色の頭をはたいた。
「行けよ、ヘタレ」
「……ブレさん」
「変な名前つけるんじゃねえ。誰が飲みに行くって?」
「だって俺、これ以上あの人らが仲良くしてんの見たら立ち直れねえ……」
ブレダは頭を抱えて項垂れる友人になんともいえない視線を注いだ。
「なんだよ」
「最近、おまえのせいでやたら大佐に睨まれるんだけど。つーかさっきも」
「俺のせいにすんな。なにやらかしたんだよ?」
「そうやって本気で思ってんのがおまえのすごいとこだと思うぜ」
「は?」
邪魔をする気はないが特に応援する気にもなれないブレダは、鈍い友人の頭をもう一度はたいて勝手にやってろ、と独りごちた。
ヒューズは妙に据わった目をしてグラスを傾ける黒い頭を呆れて見た。
「そう拗ねるなって」
「誰が拗ねるか」
「さっきみたいに酒でも食事でも誘えばいいじゃねえか。別に普通だろ?」
「……だが断られたぞ」
「それは俺が誘った上におまえが不満そうにしたからだろうが」
「それは…いきなりあんなことを言われたらそうなるだろう……」
「じゃあ今度誘ってみろよ」
「……」
ロイはむう、と口をへの字にして黙りこんでしまう。
「……あのなあ」
「だいたい、なんでおまえの方があいつと喋ってるんだ。あいつの上司は私だ」
ヒューズはバーのカウンターで酔いにまかせて本音らしきものを零している友人を見やり、がしがしと頭をかいて唸った。
「どこの乙女だよまったく……」
自分が邪魔をするまでもなくすれちがっている二人の現状を正確に把握しているヒューズは、本気の相手には強く出られないらしい親友の頭を撫でてどうしたもんかね、と呟いた。
知らぬは二人ばかり也
そこで撫でるからハボが誤解するんです
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