鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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3人で他愛無い話を続けていると、奥から、もう一人。エプロン姿の青年が顔を出した。
ジャクと同じ金髪碧眼――どころか、顔までそっくりの青年である。
ジャクの黒いエプロンではなく、グレーのものをつけているのが唯一の違いと言っていいほど、背格好にいたるまで全てが同じ彼が、もう一人のここの店主だ。
その彼は店内にいる自分と同じ顔を見つけると、その顔をくしゃりと顰めて怒鳴った。
「おいジャク!何やってる働けって!」
「今日の仕込み終わったんで、ジャンが勝手に入れたお客さんのお相手中ー」
「終わったなら店開けろよ!」
「あ。やべ」
すっかり忘れていた、と舌を出したジャクに、ヒューズとロイが顔を見合わせて微かに笑う。
探偵事務所の向かいにある此処は、ロイの行きつけのカフェだ。
ジャンとジャク、彼ら双子の青年がひっそりと、だが賑やかに営んでいるこの店をロイは特に気に入っており、またその彼らも常連客のロイに悪い気はしていないらしく、時折こうして早いオープンをしてくれたりとサービスをしてくれる。
「で、何話してたんスか?」
「ああ、ほら、最近話題だろう?例の泥ぼ――」
「お、オマエも見るか!?うちのエリシアちゃんの写真だ!!」
「いや、そっちは」
「聞いてない、ス、けど……」
「ヒューズ!人の話を遮るな!」
三者三様のリアクションも恒例の妻子自慢に入ってしまった親ばかにはこれっぽっちも通用しない。
これは長くなるかな、とロイが諦めの息をついたその時、カラン、とベルの音が鳴って、新たな客を迎えたことを店内に知らせる。
ドアに目をやった四人は、それぞれ異なる表情を浮かべてその人物を迎えた。
「こちらにいらしたんですね、所長」
「…………」
「「いらっしゃい、ホークアイさん」」
「あら、申し訳ないけど今日はお客じゃないの」
マスタング探偵事務所の事務を一手に引き受けるブロンドの美人助手はそうやって二人の店主に小さく微笑んでから、己の上司へと厳しい視線を向ける。
「えー、ウチの金づる持ってかないでくださいよ」
「バイトの次は金づる呼ばわりか貴様」
「たまにはツケ払ってってくれないと食い逃げ呼ばわりしますよ、金づる」
「やかましいヒヨコ頭どもめ」
放っておくといつまでも続きそうな双子との会話を止めたのはもちろん、どこまでも有能な助手の怜悧な声である。
「所長」
「…………はい」
「本日は朝から弁護士の方がいらっしゃるので事務所にいてくださいとお伝えしたはずですが」
叱られて小さくなっている探偵の傍らで刑事が首を傾げる。
「弁護士?いったい何したんだよロイ」
「……私は何もしていない」
「浮気調査の依頼に来た某男爵夫人に一目惚れされて、向こうの主人と浮気相手も巻き込んだ泥沼に発展し、最後は危うく刃傷沙汰に」
気まずそうに目を逸らした探偵の代わりに、冷静な助手が調査書でも読み上げるかのように告げた内容にジャクとジャンがヒュウと口笛を吹き、ヒューズが噴出した。
「また激しいっスね」
「……私のせいじゃない」
「そりゃあんたのせいじゃないでしょうけど。気をつけてさいよ、変なところで不器用なんスから」
おもしろそうに言う二人に、ヒューズも笑いを収めて提案する。
「遊びなれてるいつものご婦人方と違って生真面目な奥様は盲目だった、ってな。……そうだロイ、いっそのこと探偵やめて結婚詐欺でも始めたらどうだ?」
「私に女性を騙す趣味はない」
「じゃあ美人局」
「……おい。誰がなんだって?」
「オマエなら男も騙せるんじゃね?」
「だったら一番最初のターゲットはおまえだな」
「やってみろ。すぐ捕まえてやる」
大体この俺がグレイシア以外に靡くわけねえだろ、と左手の結婚指輪を見せ付ける男をはいはいと往なしてロイは再び窓へと目を向けた。
空は相変わらずうっすらと靄がかかっている。
「その調子でさっさと泥棒を捕まえてほしいものだ」
「この俺が入ったらすぐにでも捕まえるさ」
「――決まったのか?」
「ああ、これから捜査会議だ……そろそろ行かねえと」
時計を見た刑事は、スーツの上着を肩にひっかけ立ち上がる。
「じゃあまた来るわ。それまでにそのごたごた、解決しとけよ?」
「うるさい!」
カップを投げつけかねない勢いのロイに、ヒューズは笑いを残して去っていく。
結局泥棒の話の続きは聞けなかったな、と考えるロイの横では。
「事務所潰れたらウチで働いてくださいよ」
「ホークアイさん来たら絶対売上上がりますし」
「あら。……それもいいわね」
「さあ、仕事に行こうかホークアイ!!」
「仕事ではなく後始末です、所長」
まだコーヒーに未練がありそうだった所長を見事に引き離すことに成功した助手がすっぱりざっくりと止めを刺して、腹を抱えて笑っている双子の青年に笑いかける。
「じゃあね。次はお客として来れたらいいのだけど」
「……ごちそうさま」
「「ありがとうございましたー」」
そして、伸びのある二重奏が曇った空に木霊した。
世界観はお分かりの通り、鋼のモデルにもなった英国です。
シャーロックホームズだいすき。
ジャクと同じ金髪碧眼――どころか、顔までそっくりの青年である。
ジャクの黒いエプロンではなく、グレーのものをつけているのが唯一の違いと言っていいほど、背格好にいたるまで全てが同じ彼が、もう一人のここの店主だ。
その彼は店内にいる自分と同じ顔を見つけると、その顔をくしゃりと顰めて怒鳴った。
「おいジャク!何やってる働けって!」
「今日の仕込み終わったんで、ジャンが勝手に入れたお客さんのお相手中ー」
「終わったなら店開けろよ!」
「あ。やべ」
すっかり忘れていた、と舌を出したジャクに、ヒューズとロイが顔を見合わせて微かに笑う。
探偵事務所の向かいにある此処は、ロイの行きつけのカフェだ。
ジャンとジャク、彼ら双子の青年がひっそりと、だが賑やかに営んでいるこの店をロイは特に気に入っており、またその彼らも常連客のロイに悪い気はしていないらしく、時折こうして早いオープンをしてくれたりとサービスをしてくれる。
「で、何話してたんスか?」
「ああ、ほら、最近話題だろう?例の泥ぼ――」
「お、オマエも見るか!?うちのエリシアちゃんの写真だ!!」
「いや、そっちは」
「聞いてない、ス、けど……」
「ヒューズ!人の話を遮るな!」
三者三様のリアクションも恒例の妻子自慢に入ってしまった親ばかにはこれっぽっちも通用しない。
これは長くなるかな、とロイが諦めの息をついたその時、カラン、とベルの音が鳴って、新たな客を迎えたことを店内に知らせる。
ドアに目をやった四人は、それぞれ異なる表情を浮かべてその人物を迎えた。
「こちらにいらしたんですね、所長」
「…………」
「「いらっしゃい、ホークアイさん」」
「あら、申し訳ないけど今日はお客じゃないの」
マスタング探偵事務所の事務を一手に引き受けるブロンドの美人助手はそうやって二人の店主に小さく微笑んでから、己の上司へと厳しい視線を向ける。
「えー、ウチの金づる持ってかないでくださいよ」
「バイトの次は金づる呼ばわりか貴様」
「たまにはツケ払ってってくれないと食い逃げ呼ばわりしますよ、金づる」
「やかましいヒヨコ頭どもめ」
放っておくといつまでも続きそうな双子との会話を止めたのはもちろん、どこまでも有能な助手の怜悧な声である。
「所長」
「…………はい」
「本日は朝から弁護士の方がいらっしゃるので事務所にいてくださいとお伝えしたはずですが」
叱られて小さくなっている探偵の傍らで刑事が首を傾げる。
「弁護士?いったい何したんだよロイ」
「……私は何もしていない」
「浮気調査の依頼に来た某男爵夫人に一目惚れされて、向こうの主人と浮気相手も巻き込んだ泥沼に発展し、最後は危うく刃傷沙汰に」
気まずそうに目を逸らした探偵の代わりに、冷静な助手が調査書でも読み上げるかのように告げた内容にジャクとジャンがヒュウと口笛を吹き、ヒューズが噴出した。
「また激しいっスね」
「……私のせいじゃない」
「そりゃあんたのせいじゃないでしょうけど。気をつけてさいよ、変なところで不器用なんスから」
おもしろそうに言う二人に、ヒューズも笑いを収めて提案する。
「遊びなれてるいつものご婦人方と違って生真面目な奥様は盲目だった、ってな。……そうだロイ、いっそのこと探偵やめて結婚詐欺でも始めたらどうだ?」
「私に女性を騙す趣味はない」
「じゃあ美人局」
「……おい。誰がなんだって?」
「オマエなら男も騙せるんじゃね?」
「だったら一番最初のターゲットはおまえだな」
「やってみろ。すぐ捕まえてやる」
大体この俺がグレイシア以外に靡くわけねえだろ、と左手の結婚指輪を見せ付ける男をはいはいと往なしてロイは再び窓へと目を向けた。
空は相変わらずうっすらと靄がかかっている。
「その調子でさっさと泥棒を捕まえてほしいものだ」
「この俺が入ったらすぐにでも捕まえるさ」
「――決まったのか?」
「ああ、これから捜査会議だ……そろそろ行かねえと」
時計を見た刑事は、スーツの上着を肩にひっかけ立ち上がる。
「じゃあまた来るわ。それまでにそのごたごた、解決しとけよ?」
「うるさい!」
カップを投げつけかねない勢いのロイに、ヒューズは笑いを残して去っていく。
結局泥棒の話の続きは聞けなかったな、と考えるロイの横では。
「事務所潰れたらウチで働いてくださいよ」
「ホークアイさん来たら絶対売上上がりますし」
「あら。……それもいいわね」
「さあ、仕事に行こうかホークアイ!!」
「仕事ではなく後始末です、所長」
まだコーヒーに未練がありそうだった所長を見事に引き離すことに成功した助手がすっぱりざっくりと止めを刺して、腹を抱えて笑っている双子の青年に笑いかける。
「じゃあね。次はお客として来れたらいいのだけど」
「……ごちそうさま」
「「ありがとうございましたー」」
そして、伸びのある二重奏が曇った空に木霊した。
世界観はお分かりの通り、鋼のモデルにもなった英国です。
シャーロックホームズだいすき。
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