鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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ロイにゼンマイを巻かれたマシノイドは、ジャン・ハボックと名乗った。
金髪の大柄な青年だが、笑うと垂れた目じりが人懐っこそうな印象を与え、なんとなく犬を想像してしまう。
隣の家のゴールデンレトリバーにそっくりだ――という内心は微塵も出さず、ロイはベッドに起き上がった青年に向き合った。
「私はロイ・マスタングだ。何故あそこに?」
「探し物してたらちょっと無茶やっちまいまして。ゼンマイが切れかけたんで倒れてました」
「自分で巻く力もでないほどにか?あのままだったら完全に止まってしまっていたぞ」
「そうなったら俺もそれまでだったってことなんで」
飄々とした態度でとんでもないことを言う。
いかに人によって作られたマシノイドとて、多少の感情や自我がある――ように、作られている。
極端なものでは、主人に捨てられることを何よりも怖れるように作られたものもあるのだ。
止まったらそこまでだと言い放つマシノイドなど、人間にとっては不都合なだけ。
ハボックのどこか投げやりな表情は、今まで彼が見てきたマシノイドにはないもので、ロイはぱちぱちとまばたきした。
「……おまえのようなタイプは初めて見た。作者は誰だ?」
「さあ。俺もよくは」
「ではマスターは?」
「マスター?」
「おまえの持ち主。所有者だ」
「いませんね」
なんでもないことのようにあっさりと答えるハボックに、ロイは疲れを感じて溜め息をついた。
「……どこまでも規格外だな、おまえ……」
「そうなんですか?」
「そうだ。マシノイド自体はさほど珍しくないが、まだ一部の富裕層か軍の所有するものばかりだぞ。自分の作者も知らない、マスターもいないマシノイドなど、そうは聞かん」
「はあ」
そうなんすか、とやる気なく頬をかく男は、ことの重大性を分かっているのかいないのか。
「じゃあ、ここは軍のマシノイド研究所なんで?」
「……何故そう思う?」
「あんた、大佐って呼ばれてました。マシノイドにも詳しいみたいですしなんとなく」
「ああ。私はここでマシノイドの研究をしている」
何を考えているか分からないところはあるが、勘は悪くなさそうだ。
主人を持たず、人間中心でない自我を持ち、果てはゼンマイで動く、とことん規格を外れたマシノイド。
――おもしろい。
ロイは妙に高揚した気分になりながら、ベッドに座るハボックの前に仁王立ちになって告げた。
「では、今日から私がおまえの主人だ」
「――は?」
何言い出したんだこの人――そんな目で自分を胡乱げに見る青の瞳にまっすぐ視線を合わせる。
「おまえに生きる意味がないなら、私が与えてやる。――私を守れ」
私は敵が多いから、退屈しないぞ?
にやりと不敵な笑みを浮かべて言うと、ハボックは青い瞳に驚きを滲ませていたが、徐々に面白そうな光が宿り、ついには耐え切れないといったように吹き出した。
「っく、はははっ!」
「な、何がおかしい!」
「いや、やっぱりあんたはあんたですね……」
しばらくくつくつと笑っていたが、立ち上がって、自分を見上げるロイの黒い瞳をじっと覗き込むと、くっと口端を持ち上げた。
「――あんたの犬になるのも、悪くなさそうだ」
その瞬間、茫洋とした青年の瞳が獰猛な獣のそれに変わって、息をのむ。
単なる野良犬と思っていたが――そうではないのかもしれない。
「……探し物はいいのかね」
「ええ。もう見つかりました」
「そうなのか?」
「はい」
今度はさっきの鋭い視線が嘘のように、とても幸せそうな顔で微笑まれた。
その後ろに勢いよく振られる尻尾が見えたのは――気のせいだと思いたいロイである。
「わかった。じゃあ手続きが必要だな……。ちょっとここで待っていろ」
初対面で様々な表情を見せる青年にどこか調子を狂わされつつもそう告げて、ロイは廊下への扉に手をかけたところで思い出したように振り返る。
黒い瞳がどこか悪戯っぽい色をして青年――ハボックを見上げた。
「そうだ。ひとつ言い忘れていたが」
「はい?」
「私もマシノイドだ。だから人間のように気をつかわなくていいぞ?」
「は――はいっ!?」
まったく想定していなかったのだろう。素っ頓狂な声に、ロイはたまらず吹き出した。
見つけたのは偶然、拾ったのは必然。
そうロイが知るのは、遠い先のことである。
タイトルはbe in love with flowerさま。
金髪の大柄な青年だが、笑うと垂れた目じりが人懐っこそうな印象を与え、なんとなく犬を想像してしまう。
隣の家のゴールデンレトリバーにそっくりだ――という内心は微塵も出さず、ロイはベッドに起き上がった青年に向き合った。
「私はロイ・マスタングだ。何故あそこに?」
「探し物してたらちょっと無茶やっちまいまして。ゼンマイが切れかけたんで倒れてました」
「自分で巻く力もでないほどにか?あのままだったら完全に止まってしまっていたぞ」
「そうなったら俺もそれまでだったってことなんで」
飄々とした態度でとんでもないことを言う。
いかに人によって作られたマシノイドとて、多少の感情や自我がある――ように、作られている。
極端なものでは、主人に捨てられることを何よりも怖れるように作られたものもあるのだ。
止まったらそこまでだと言い放つマシノイドなど、人間にとっては不都合なだけ。
ハボックのどこか投げやりな表情は、今まで彼が見てきたマシノイドにはないもので、ロイはぱちぱちとまばたきした。
「……おまえのようなタイプは初めて見た。作者は誰だ?」
「さあ。俺もよくは」
「ではマスターは?」
「マスター?」
「おまえの持ち主。所有者だ」
「いませんね」
なんでもないことのようにあっさりと答えるハボックに、ロイは疲れを感じて溜め息をついた。
「……どこまでも規格外だな、おまえ……」
「そうなんですか?」
「そうだ。マシノイド自体はさほど珍しくないが、まだ一部の富裕層か軍の所有するものばかりだぞ。自分の作者も知らない、マスターもいないマシノイドなど、そうは聞かん」
「はあ」
そうなんすか、とやる気なく頬をかく男は、ことの重大性を分かっているのかいないのか。
「じゃあ、ここは軍のマシノイド研究所なんで?」
「……何故そう思う?」
「あんた、大佐って呼ばれてました。マシノイドにも詳しいみたいですしなんとなく」
「ああ。私はここでマシノイドの研究をしている」
何を考えているか分からないところはあるが、勘は悪くなさそうだ。
主人を持たず、人間中心でない自我を持ち、果てはゼンマイで動く、とことん規格を外れたマシノイド。
――おもしろい。
ロイは妙に高揚した気分になりながら、ベッドに座るハボックの前に仁王立ちになって告げた。
「では、今日から私がおまえの主人だ」
「――は?」
何言い出したんだこの人――そんな目で自分を胡乱げに見る青の瞳にまっすぐ視線を合わせる。
「おまえに生きる意味がないなら、私が与えてやる。――私を守れ」
私は敵が多いから、退屈しないぞ?
にやりと不敵な笑みを浮かべて言うと、ハボックは青い瞳に驚きを滲ませていたが、徐々に面白そうな光が宿り、ついには耐え切れないといったように吹き出した。
「っく、はははっ!」
「な、何がおかしい!」
「いや、やっぱりあんたはあんたですね……」
しばらくくつくつと笑っていたが、立ち上がって、自分を見上げるロイの黒い瞳をじっと覗き込むと、くっと口端を持ち上げた。
「――あんたの犬になるのも、悪くなさそうだ」
その瞬間、茫洋とした青年の瞳が獰猛な獣のそれに変わって、息をのむ。
単なる野良犬と思っていたが――そうではないのかもしれない。
「……探し物はいいのかね」
「ええ。もう見つかりました」
「そうなのか?」
「はい」
今度はさっきの鋭い視線が嘘のように、とても幸せそうな顔で微笑まれた。
その後ろに勢いよく振られる尻尾が見えたのは――気のせいだと思いたいロイである。
「わかった。じゃあ手続きが必要だな……。ちょっとここで待っていろ」
初対面で様々な表情を見せる青年にどこか調子を狂わされつつもそう告げて、ロイは廊下への扉に手をかけたところで思い出したように振り返る。
黒い瞳がどこか悪戯っぽい色をして青年――ハボックを見上げた。
「そうだ。ひとつ言い忘れていたが」
「はい?」
「私もマシノイドだ。だから人間のように気をつかわなくていいぞ?」
「は――はいっ!?」
まったく想定していなかったのだろう。素っ頓狂な声に、ロイはたまらず吹き出した。
見つけたのは偶然、拾ったのは必然。
そうロイが知るのは、遠い先のことである。
タイトルはbe in love with flowerさま。
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