鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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「行け、翠姫《スイキ》――」
静かな呼びかけとともに、青年の掲げた刀剣がうっすらと光を帯びる。
その刀で妖鬼の眉間にあった心臓を過たず貫くと、その光は喜ぶかのようにますます輝きを放った。
光る刀身を妖鬼から抜き去った勢いでその体液を払い落とし、金髪碧眼の青年は息をついた。
「うっし、あと一匹ーっと」
口調は軽く、しかし視線は鋭く。
青年の見据えた先にいた最後の一匹――歪な形をした妖鬼は周囲を見渡して自らの不利を悟ったのか、人語ではない何かをわめき散らして最後の手段に出る。その光景に青年は目を見開いた。
「――げ。」
「増えたな」
金髪の青年から、少し離れたところでふよふよと浮いている――形容でもなんでもなく、宙に浮いている――黒髪の青年が冷静に現状を指摘した。
「あっさり言わんでくださいよ、ロイ。うーわー出る出る」
わらわらと妖鬼から溢れ出した小鬼に、青年は顔をしかめ、それでも薄く翠に光る刀身を構える。
「これ、本体倒したら……」
「この手のタイプは一匹ずつ殺さんと死なんぞ」
「マジっスか……」
僅かな希望を持って言うもあっさりと打ち砕かれ、やってられねえ、と青年が呟く。
常ならば彼の実力でこの程度の小鬼に手こずることはないが、如何せん数が多い。
そして金髪の青年――ハボックの破妖刀である翠姫も、相手が妖鬼よりも力の弱い小鬼と見たとたん、興味はないと言わんばかりに輝きが落ちていく。
「翠姫まで!?おまえ、偏食すんじゃねえっての!」
「話してる暇があるのか?」
「――っと!」
のんびりとした声に飛び掛ってきた小鬼の爪を避け、眉間を貫くが、今度は心臓の位置が違ったらしい。完全に息絶えずに攻撃を重ねてくる小鬼を刀で交わしながら、ハボックは焦る。
「ちょ、翠姫、サボんなって!」
「おまえが甘やかすから我侭になるんだ」
再び宙から聞こえてくる冷静な声に、それでも次から次へと小鬼を屠りながら、ハボックはロイと呼ばれた青年を振り返った。
「ロイ!あんたも少しは働いてくださいよ!」
あんた一応護り手でしょうが――!結界だけ張った後は傍観者に徹していた己の護り手にやけっぱちで叫ぶと、なんともあっさりとした返事がハボックに届いた。
「倒していいのか?」
「…………………は?」
「だから、私が倒してしまってもいいのか?」
唖然として己を見上げている破妖剣士に気づくことなく、首を傾げてごくごく真剣にロイが問う。
「………………………」
「ハボック?」
黙ったままずんずんと抜き身の剣を提げて歩み寄ってくるハボックに、今度はロイが慌てて距離をとった。
「ハボック!翠姫!翠姫!」
「――ああ」
宙に浮くロイの天敵――魔性を殺す力を持った破妖刀――の存在を指摘されると、今気づいたと言わんばかりに鞘へと納めてロイを見上げる。
目で降りて来いと促され、ロイはそれまで見物していた中空から地面へと足を下ろした。
「ロイ。これ倒せるんスか?」
「私を誰だと思ってるんだ、こんな雑魚――ハボ、前」
ロイの言葉とほぼ同時に、ハボックは背後から襲い掛かってきた小鬼を振り向きざまあっさりと薙ぎ払い、次の瞬間には刃を納めていた。
「――今取り込み中だ」
一撃で倒れた小鬼を冷たく睥睨して言い放ち、再びロイへと向き直る。
「倒せるんスね!?」
「う、うむ」
普段のほほんとしたヤツがキレると怖い――妙に据わった目をしたハボックにたじろぎながらもロイが頷くとがしりと両肩をつかまれてびくりとした。
「だったら早く言ってくださいよ……!」
「いや、おまえも姫君もまだ満足していないのかと思って……」
私は手を出してはダメなのかと……目を伏せてごにょごにょと零す姿は世界に50人いるかどうかといわれる強い力を秘めた妖貴とは思えず――とことん本気で言っているらしいのを見てハボックは脱力した。
ロイにしたら雑魚で遊んでるように見えたのかもしれないが、こっちは生きるか死ぬかだ。
しみじみとため息をついて、つかんでいた手を離す。
「……あんたがフェミニストなのはよく分かりましたが、このままじゃ俺が力尽きます」
「それは困るな」
「…………本当に困ってんですか?」
「困るとも。だったら手を出そう」
疑わしげに見やるハボックを気にも留めず、全然困ってない口調で呟いてから、ロイは周囲で無数にうごめく小鬼たちに黒い目を細めた。
「さて、私の力も読めない小物か、はたまた分かってやっている何処かの馬鹿の命令か――」
ロイの周囲からふわりと光が立ち上り、隣に立つハボックは目を瞠る。
深い闇の色彩をその髪と瞳にたたえ、焔の光を纏う姿は何度目にしても綺麗だ。
白い光に照らされた漆黒の青年はうっすらと――どこか酷薄な微笑みを浮かべて告げた。
「どちらにせよ、おまえたちは邪魔だ」
そして、焔が舞った。
「これでいいか?」
「…………俺の努力って……」
きりがないかと思われた小鬼たちの大群が一瞬にして消え去り、呆然とこぼすハボックだったが、最初に小鬼たちを生み出した妖鬼の姿が目に入った瞬間に意識を切り替える。
「アレはおまえと姫君に任せる」
「りょーかいっス」
一応自分の仕事も残しておいてくれたらしい相手に答えながら足はすでに走り出している。すらりと鞘から抜いた相棒は、獲物を前にして燦然とした光を放っていて、ハボックは調子がいい、と苦笑しながら相手を見据えて狙いを定めた。
「ほら、行くぜ翠姫――」
この妖鬼を倒した後に何がいるのか――ロイの台詞からは嫌な予感しかしなかったが――は、とりあえず置いておいて、ハボックは目の前の相手を倒すべく、刀を振りかざした。
えーコ○ルト文庫の破妖の剣パロです。
ぼけぼけ護り手のロイと破妖剣士なハボ。
…………自分だけ楽しくてすみません……。
この設定だと大佐は白煉さん系列ですね。
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