鋼の錬金術師テキストブログ。所謂「女性向け」という言葉をご存じない方、嫌悪感を持たれる方はご遠慮ください。現状ほぼ休止中。
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つづきというか同設定です。なんかすいません。
『こんなところまで潜り込んでくるなんて……少しは楽しませてくれるのかしら?』
何もない空間に響いた声と圧倒的な力に、ハボックはがっくりと項垂れたい気分になった。
「騙された……」
緊張を解かぬまま、ぼそりとつぶやく。
「あのオッサン、何が『今回は大して力のなさそうな妖鬼だ!翠姫とロイが行けばあっさり終わるだろ~楽勝楽勝!』だ……!」
『それに、そっちの裏切り者は美味しそうね?』
「めちゃくちゃ妖貴絡んでんじゃねえか!」
「……おまえ、ヒューズのマネ上手いな」
「嬉しくないっス!」
妖貴相手にこの場をどう切り抜けるか、必死で頭を回している時にこの人は。
それもこれもあの上司のせいだ――ハボックはこの仕事を自分に与えた相手を呪う言葉を吐き捨て、すらりと剣を抜いた。責任転嫁、という呟きが背後でちらりと聞こえた気がしたが――無視する。
浮城の人間ですらどうにもならない相手――それが妖貴である。
魔性に唯一対抗できる組織である浮城といえど万能ではない――むしろ上級魔性に対しては無力に等しいことに変わりない――という事実は、そこに属しているハボックが一番理解している。
かつて妖貴、果ては世界に5人しかいなかった妖主とまで切り結んで勝利した破妖剣士もいたらしいが、最早伝説上の話である。
「それで、どうするんだ?」
「どうするも何も……どうしましょうか」
問うてきたのは何の気まぐれか酔狂か、自分の護り手なんぞに収まっている、これまた妖貴の青年。
しかも妖貴の中でもかなりの上級魔性である。
妖貴の証である闇を写し取ったような瞳と髪、そしてやや幼い顔をした青年はいつもと変わらぬ態度で宙に浮いている。
「のんきにしちゃってまあ……」
「何か言ったか?」
「いいえ、なーんに…もっ!?」
「私を無視するなんていい度胸ね?」
今まで部屋に響くようにしていた声が、実体を伴ったと思った瞬間、体が動かなくなった。
妖貴による呪縛――だがハボックは制限された動きよりも、ついさっきまで会話していた人の気配が消えたことに焦り、周囲に感覚を走らせる――いない。
「ロイ!?」
「人の心配をしている場合かしら?」
唐突に現れた妖貴は、豊かに波打つ黒髪を流して、自身を睨みつけるハボックを見やった。
「ロイをどこにやった!?」
「さあ、どこかしら」
嫣然と微笑む姿は自分の優位――実際、ハボックは動けないのだが――を確信している。
ゆったりとハボックを見ていた黒い瞳が、ふと見開かれた。
「あら、あなた。人間にしては綺麗な顔をしているわね」
「…………アリガトウゴザイマス」
初めてではない言葉をかけられ、苦虫を噛み潰したような顔になる。
非常に困ったことに、どうにも自分は魔性から好かれやすい顔をしている、らしい。
今まで会った妖鬼や妖貴――恐ろしいことに何故か数回会ったことがある――たちからもハボックは妙に気に入られることが多かった。……その筆頭はといえば、現在自分の護り手に収まっている彼だったりするのだが。
人間の中でも特に美形というわけでもない――どころか全然モテない――のに、魔性たちに気に入られてしまうのは本当に謎としか言いようがない。
金縛りのように動けなくなった体をするりと撫でられて怖気立った。
力を入れて振りほどこうとするのを愉快そうに眺められる。
「いくら頑張ってもムダよ?人間風情に私の術が解けるわけないでしょう」
「んなの、やってみないと、わかんねえでしょうが……っ」
そういいつつも、微動だにしない自分の体に歯噛みする。
「その嫌な気配のする剣は気に入らないけど、あなたは気に入ったわ。魂も綺麗だし、すぐには殺さないで……そうね、飽きるまで私の傍においてあげる」
ありがたく思いなさい――それは彼女にとっては決定事項であり、ハボックにとっては忌避できぬこと。
それを理解したハボックは込めていた力をふっと抜いて、少し上から覗き込む妖貴を見た。妖貴だけあってかなりの美人――しかも悲しいことに好みだ――は、諦めたと思しき獲物に満足げに黒い目を細める。
顎に指がかけられ、吐息のかかる距離で、赤い唇が笑みをかたどった。
「そう。そうやって大人しくしていたら、可愛がってあげるわ」
「はあ。まあ美人のオネエサンにそう言われるのは嬉しいんですがね――残念ながら、俺の隣は売約済みでして」
「え――きゃあああっ!!」
言い終えた瞬間――、目の前の女が炎に包まれた。
女は炎を消そうと力を使いもがくも、鮮やかな色をした炎はじくじくと残り、心臓ひとつが消え失せるまで消えることはなく。
その間、呪縛から逃れたハボックは、目の前の魔性と距離をとる。
同時にすぐそばで怒りに満ちた声が鼓膜を直撃した。
「何してる!?」
「っ!俺は何もしてませんって!」
「あんな術などさっさと気合で解けばいいだろう!」
「きあ……無茶言わんでください!」
「おまえ、いつもそれでなんとかしてるじゃないか!もしかしてああいうのが好みなのか!?」
「違います!!ちょ、ロイ、落ち着いてくださいって!」
おそらく女によって分たれていた空間を繋いだ青年は、ハボックの隣でまさしく烈火のごとく怒りを顕わにしていて焦る。捕らえられた時にこうなるだろうと予想はしていたものの、予想以上の怒り様だ。ちょっと好みかもと思ったのがバレたかな――思っていると、がしっと頭を抱え込まれた。
睨み据える先には、さきほど彼の炎一つでいとも簡単に心臓ひとつぶんの命を奪った女。
「うわ」
「これは私のだ。おまえごときが触れていいものではない」
「俺、私物扱いっスか」
「不満か?」
「いいえ、嬉しすぎて死にそうです」
「だったら死ね」
「死んだらロイが困りますから死にませんよ」
「…………」
美しいと評される顔を歪めてちらりとこちらを見る人にへら、と笑いかけて、すぐそばのご馳走――この場合、ロイだ――に反応している相棒を鞘に戻して抑えながら、体を離す。
そして、心臓ひとつぶんのダメージにふらつく女を見やった。
「よくも…人間なんぞについた裏切り者の分際でっ……!」
「身をわきまえるのはそっちだと思うのだが」
「つーか、力の差って分かんないもんなんですか」
呆れたような彼の様子と心臓の数。そして、その身に映し出された二人の容姿――力を持った魔性ほど美形なのだ――を見るに、明らかにロイの方が力を持っている。
「分かっても認めたくないんだろう。魔性は自尊心が高いヤツが多いからな」
「――なるほど」
「なぜ私を見る?」
「いいえ?」
「浮城の破妖剣士と裏切り者ごときにこの私が倒せるものですか!!」
「……まあ、俺に関しては確かにそうっスね」
たしかに、人間のハボックにとっては力の差など歴然の相手。
軽口を叩き合うのをやめ、相手の一挙一動に反応するよう緊張感をさらに高める。手にしていた剣がひときわ明るく輝き、音にならない音をたてた。
「見ろ。浮気ばかりしているから姫君がお怒りだぞ」
「わ。……翠姫。俺の相棒はおまえだけだって」
ハボックが鞘に口付けて微笑むと、剣を包む光がふわりと優しくなる。
こういったところがロイや同僚に「天然タラシ」と言われる所以なのだが、当然の如く本人は無意識の所作だ。
そして、何が気に入らないのか、まだむくれている己の護り手を見る。
「ロイ?」
「…………」
「俺の護り手はロイだけですよ?」
剣を持たぬ方の手で肩を抱き寄せ、拗ねた表情を横目にこめかみに軽く口付けると、耳まで真っ赤になるところが可愛いと思う。
当然だ、と耳に届いたごくごく小さな声に、くすりと笑って。
「だからサポートお願いします」
「私もやる」
「今回の俺の任務は?」
「…………シースの村を襲った魔性の退治」
「俺の仕事です。サポート、お願いしますね」
「……わかった。でも死にそうになったら手を出すぞ」
「ありがとうございます。んじゃ、いっちょ行きますか」
口調はどこまでも軽く。アイスブルーの瞳をひときわ濃い青に変え、のちに妖貴を倒した破妖剣士として名を馳せる青年は、彼にとって初めて倒すことになる妖貴をするどく見据えた。
ハボに夢見すぎですかそうですか。
ここのロイさんはわりと大っぴらにハボさんが大好きです。嫉妬全開です。とても楽しいです。(私が)
『こんなところまで潜り込んでくるなんて……少しは楽しませてくれるのかしら?』
何もない空間に響いた声と圧倒的な力に、ハボックはがっくりと項垂れたい気分になった。
「騙された……」
緊張を解かぬまま、ぼそりとつぶやく。
「あのオッサン、何が『今回は大して力のなさそうな妖鬼だ!翠姫とロイが行けばあっさり終わるだろ~楽勝楽勝!』だ……!」
『それに、そっちの裏切り者は美味しそうね?』
「めちゃくちゃ妖貴絡んでんじゃねえか!」
「……おまえ、ヒューズのマネ上手いな」
「嬉しくないっス!」
妖貴相手にこの場をどう切り抜けるか、必死で頭を回している時にこの人は。
それもこれもあの上司のせいだ――ハボックはこの仕事を自分に与えた相手を呪う言葉を吐き捨て、すらりと剣を抜いた。責任転嫁、という呟きが背後でちらりと聞こえた気がしたが――無視する。
浮城の人間ですらどうにもならない相手――それが妖貴である。
魔性に唯一対抗できる組織である浮城といえど万能ではない――むしろ上級魔性に対しては無力に等しいことに変わりない――という事実は、そこに属しているハボックが一番理解している。
かつて妖貴、果ては世界に5人しかいなかった妖主とまで切り結んで勝利した破妖剣士もいたらしいが、最早伝説上の話である。
「それで、どうするんだ?」
「どうするも何も……どうしましょうか」
問うてきたのは何の気まぐれか酔狂か、自分の護り手なんぞに収まっている、これまた妖貴の青年。
しかも妖貴の中でもかなりの上級魔性である。
妖貴の証である闇を写し取ったような瞳と髪、そしてやや幼い顔をした青年はいつもと変わらぬ態度で宙に浮いている。
「のんきにしちゃってまあ……」
「何か言ったか?」
「いいえ、なーんに…もっ!?」
「私を無視するなんていい度胸ね?」
今まで部屋に響くようにしていた声が、実体を伴ったと思った瞬間、体が動かなくなった。
妖貴による呪縛――だがハボックは制限された動きよりも、ついさっきまで会話していた人の気配が消えたことに焦り、周囲に感覚を走らせる――いない。
「ロイ!?」
「人の心配をしている場合かしら?」
唐突に現れた妖貴は、豊かに波打つ黒髪を流して、自身を睨みつけるハボックを見やった。
「ロイをどこにやった!?」
「さあ、どこかしら」
嫣然と微笑む姿は自分の優位――実際、ハボックは動けないのだが――を確信している。
ゆったりとハボックを見ていた黒い瞳が、ふと見開かれた。
「あら、あなた。人間にしては綺麗な顔をしているわね」
「…………アリガトウゴザイマス」
初めてではない言葉をかけられ、苦虫を噛み潰したような顔になる。
非常に困ったことに、どうにも自分は魔性から好かれやすい顔をしている、らしい。
今まで会った妖鬼や妖貴――恐ろしいことに何故か数回会ったことがある――たちからもハボックは妙に気に入られることが多かった。……その筆頭はといえば、現在自分の護り手に収まっている彼だったりするのだが。
人間の中でも特に美形というわけでもない――どころか全然モテない――のに、魔性たちに気に入られてしまうのは本当に謎としか言いようがない。
金縛りのように動けなくなった体をするりと撫でられて怖気立った。
力を入れて振りほどこうとするのを愉快そうに眺められる。
「いくら頑張ってもムダよ?人間風情に私の術が解けるわけないでしょう」
「んなの、やってみないと、わかんねえでしょうが……っ」
そういいつつも、微動だにしない自分の体に歯噛みする。
「その嫌な気配のする剣は気に入らないけど、あなたは気に入ったわ。魂も綺麗だし、すぐには殺さないで……そうね、飽きるまで私の傍においてあげる」
ありがたく思いなさい――それは彼女にとっては決定事項であり、ハボックにとっては忌避できぬこと。
それを理解したハボックは込めていた力をふっと抜いて、少し上から覗き込む妖貴を見た。妖貴だけあってかなりの美人――しかも悲しいことに好みだ――は、諦めたと思しき獲物に満足げに黒い目を細める。
顎に指がかけられ、吐息のかかる距離で、赤い唇が笑みをかたどった。
「そう。そうやって大人しくしていたら、可愛がってあげるわ」
「はあ。まあ美人のオネエサンにそう言われるのは嬉しいんですがね――残念ながら、俺の隣は売約済みでして」
「え――きゃあああっ!!」
言い終えた瞬間――、目の前の女が炎に包まれた。
女は炎を消そうと力を使いもがくも、鮮やかな色をした炎はじくじくと残り、心臓ひとつが消え失せるまで消えることはなく。
その間、呪縛から逃れたハボックは、目の前の魔性と距離をとる。
同時にすぐそばで怒りに満ちた声が鼓膜を直撃した。
「何してる!?」
「っ!俺は何もしてませんって!」
「あんな術などさっさと気合で解けばいいだろう!」
「きあ……無茶言わんでください!」
「おまえ、いつもそれでなんとかしてるじゃないか!もしかしてああいうのが好みなのか!?」
「違います!!ちょ、ロイ、落ち着いてくださいって!」
おそらく女によって分たれていた空間を繋いだ青年は、ハボックの隣でまさしく烈火のごとく怒りを顕わにしていて焦る。捕らえられた時にこうなるだろうと予想はしていたものの、予想以上の怒り様だ。ちょっと好みかもと思ったのがバレたかな――思っていると、がしっと頭を抱え込まれた。
睨み据える先には、さきほど彼の炎一つでいとも簡単に心臓ひとつぶんの命を奪った女。
「うわ」
「これは私のだ。おまえごときが触れていいものではない」
「俺、私物扱いっスか」
「不満か?」
「いいえ、嬉しすぎて死にそうです」
「だったら死ね」
「死んだらロイが困りますから死にませんよ」
「…………」
美しいと評される顔を歪めてちらりとこちらを見る人にへら、と笑いかけて、すぐそばのご馳走――この場合、ロイだ――に反応している相棒を鞘に戻して抑えながら、体を離す。
そして、心臓ひとつぶんのダメージにふらつく女を見やった。
「よくも…人間なんぞについた裏切り者の分際でっ……!」
「身をわきまえるのはそっちだと思うのだが」
「つーか、力の差って分かんないもんなんですか」
呆れたような彼の様子と心臓の数。そして、その身に映し出された二人の容姿――力を持った魔性ほど美形なのだ――を見るに、明らかにロイの方が力を持っている。
「分かっても認めたくないんだろう。魔性は自尊心が高いヤツが多いからな」
「――なるほど」
「なぜ私を見る?」
「いいえ?」
「浮城の破妖剣士と裏切り者ごときにこの私が倒せるものですか!!」
「……まあ、俺に関しては確かにそうっスね」
たしかに、人間のハボックにとっては力の差など歴然の相手。
軽口を叩き合うのをやめ、相手の一挙一動に反応するよう緊張感をさらに高める。手にしていた剣がひときわ明るく輝き、音にならない音をたてた。
「見ろ。浮気ばかりしているから姫君がお怒りだぞ」
「わ。……翠姫。俺の相棒はおまえだけだって」
ハボックが鞘に口付けて微笑むと、剣を包む光がふわりと優しくなる。
こういったところがロイや同僚に「天然タラシ」と言われる所以なのだが、当然の如く本人は無意識の所作だ。
そして、何が気に入らないのか、まだむくれている己の護り手を見る。
「ロイ?」
「…………」
「俺の護り手はロイだけですよ?」
剣を持たぬ方の手で肩を抱き寄せ、拗ねた表情を横目にこめかみに軽く口付けると、耳まで真っ赤になるところが可愛いと思う。
当然だ、と耳に届いたごくごく小さな声に、くすりと笑って。
「だからサポートお願いします」
「私もやる」
「今回の俺の任務は?」
「…………シースの村を襲った魔性の退治」
「俺の仕事です。サポート、お願いしますね」
「……わかった。でも死にそうになったら手を出すぞ」
「ありがとうございます。んじゃ、いっちょ行きますか」
口調はどこまでも軽く。アイスブルーの瞳をひときわ濃い青に変え、のちに妖貴を倒した破妖剣士として名を馳せる青年は、彼にとって初めて倒すことになる妖貴をするどく見据えた。
ハボに夢見すぎですかそうですか。
ここのロイさんはわりと大っぴらにハボさんが大好きです。嫉妬全開です。とても楽しいです。(私が)
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